北、特使団通じトランプ氏に秋波 3月会談の“再演”狙う

激動・朝鮮半島
韓国特使団に対する金正恩氏の主な発言

 【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は5日に会談した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の特使団に対して「非核化の意志」とトランプ米大統領への「信頼」に変わりがないと重ねて強調した。米朝首脳会談につなげた3月の会談同様、特使団を通してトランプ氏へ秋波を送った形だ。ただ、信頼醸成に向けて先に米側が行動すべきだとの主張に変化はなかった。

 「誰に対してもトランプ氏について否定的な話を一度もしたことがない」。特使団を率いた鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府国家安保室長によると、金氏はトランプ氏に寄せる信頼をこう語った。

 「朝米協議に多少の困難はある」と米朝交渉の停滞を認めつつも「そんな時ほどトランプ氏への信頼は維持される」と強調した。

 自身の非核化意志に国際社会から疑いの目が向けられていることへの「もどかしさ」も吐露したという。

 北朝鮮の国営メディアも6日、鄭氏の発表に先んじて金氏が「非核化の意志を重ねて確約した」と会談内容を伝えた。北朝鮮メディアが金氏の非核化発言を積極的に報じるのは異例だ。金氏は米朝首脳会談への文氏の貢献を挙げて「常に感謝している」とも述べた。

 韓国側も金氏の非核化発言を積極的に発表することで米朝交渉の打開に向けて援護した。南北が足並みをそろえ、4月の南北首脳会談や6月の米朝首脳会談に道筋を付けた3月の特使団訪朝の“再演”を狙う思惑が浮かぶ。文氏は6日、大統領府の会議で、特使団派遣は「期待以上の成果を得た」と自画自賛した。

 だが、金氏が言及した非核化措置は、5月に廃棄した核実験場の「坑道の3分の2が崩落し、永久に実験が不可能だ」という点や、既に廃棄を約束したミサイルエンジン実験場は「国内唯一の施設で、弾道ミサイル実験の完全中止を意味する」という内容。新たな措置は明らかにせず、同時行動の原則に従い、米側が相応の措置を取れば、さらなる非核化措置を取る用意があると主張した。北朝鮮が最初の措置として求めるのは朝鮮戦争の終戦宣言だ。

 文政権は会談内容を早急に米側に説明する方針だが、金氏の立場は北朝鮮の従来の主張から抜け出しておらず、トランプ政権が額面通りに受け止め、米朝協議が進展する保証はない。