「良い子演じるだけでは台湾の利益にならない」 台湾の陳水扁元総統独占インタビュー詳報

 
インタビューに答える陳水扁氏

 台湾の陳水扁(ちん・すいへん)元総統は産経新聞の単独インタビューで、蔡英文(さい・えいぶん)政権の対中政策について「良い子を演じるだけでは台湾の国益にならない」との考えを強調した。主なやりとりは以下の通り。(聞き手 矢板明夫)

 --現在の体調はどうか。どのようなことに関心があるのか

 「脳神経の病気で体のあちこちに痛みがあり、手の震えが止まらない。もうぼろぼろだ。しかし、私は自分の体のことよりも、祖国のことを心配している。台湾はいま、大変危機的な状況にある。どんなことがあっても、中国共産党が台湾を支配するようなことがあってはならない。台湾の民主主義と自由を守るために自分のすべてをささげる」

 --中国は台湾と外交関係のある国を次々と奪っている

 「国際社会における台湾の存在を抹消したいのが北京の一貫した考え方だ。習近平政権になってから、手口がさらに強引になった。空母や戦闘機を台湾周辺に派遣するなど軍事的圧力も強めてきた。中国が武力で台湾を侵攻する可能性は以前と比べて高くなった」

 --蔡政権の対中政策をどう評価するか

 「蔡政権は中台関係の現状を維持すると主張している。しかし、現状を変えようとしているのは中国の方だ。守りだけでは限界があり、もっと積極的に攻める外交を展開しなければならない。私の総統在任時には、中国と国交のある国を奪い返す努力もし、4つの国と国交樹立に成功した。国際大会で『一辺一国』(中台はそれぞれ別の国)という発言もした。中国を刺激したので、米国からも“トラブルメーカー”と批判されたが、良い子を演じるだけでは台湾の国益にならない」

 --中国の脅威に対抗するためには、どのような方法があるのか

 「私たちは戦闘機や大砲で中国に対抗することはできない。民主主義的な方法を使うしかない。例えば住民投票を実施することで、『中国に併合されたいのか』『中華台北ではなく、台湾という名前で東京五輪に参加したいのか』など具体的な民意を調べる。投票で台湾の態度をはっきりと示し、国際社会に理解してもらう努力をする。私は総統在任時に住民投票を積極的に推進し、野党から猛反対された。しかし、今の(与党)民主進歩党は立法院(国会に相当)で過半数を持っているし、条件は当時より熟している。『喜楽島連盟』という台湾の政治団体が住民投票を推進しているが、政府と議会はもっと協力的な姿勢を示すべきだ」

 --いまの「米中貿易戦争」をどうみる

 「米国と中国の対立が深刻化することは、台湾にとってある意味で大きなチャンスだ。この時期を利用して米国に接近し、国際社会での存在感を高めたい。しかし一方で、トランプ米大統領が最優先にしているのは米国の利益であり、台湾は『対中カード』にすぎないという自覚も必要だ。米中貿易戦争は永遠に続くと思わない。米国に過度な期待をしてはならない」

 --日本への期待は

 「『台湾関係法』や『台湾旅行法』のような米国と同様の法律を作り、法整備の面でも台湾を支援してもらいたいという気持ちはある。しかし、日本側にもいろいろな事情があり、すぐには対応できないことも理解している。安倍晋三政権は、歴代自民党政権の中でも最も台湾に対して友好的だ。日本の対台湾窓口機関の名称を『交流協会』から『日本台湾交流協会』に変えてくれたのは、台湾側の外交努力ではなく、日本側が言い出してくれたことで、本当に感謝している。台湾側はむしろ、日本の善意に積極的に応えるという努力が足りない。日本に甘えているところがある」

 --馬英九(ば・えいきゅう)前政権についてどのように評価するか

 「現在の台湾の危機の原因は、すべて馬政権が作った。経済重視という名目でほぼ無条件に門戸を開いたため、中国の侵食がひどい状況になった。しかし、馬政権の8年間の経済成長率は平均2・8%で、私の8年間の平均4・8%より2ポイントも低かった。台湾の経済にとって良いことは何もなかった。2015年11月に馬氏と中国の習近平氏がシンガポールで会談し、馬氏は『歴史的な握手』と自慢した。だが、その数カ月後、蔡政権の発足に伴って中国人民解放軍の空母や戦艦、戦闘機が台湾周辺で急増し、国際社会での台湾いじめも加速した。いまからみれば、あの会談は馬氏個人のパフォーマンスでしかなく、台湾に平和も繁栄ももたらさなかった」

 --国民党の馬政権発足後、汚職の罪により逮捕・起訴された

 「仕方のないことだ。中国人の辞書に『易姓革命』という言葉はあっても『政権交代』という言葉はない。彼らが政権を手にしたら、まず前政権の関係者を清算する。財産を没収し、一族を殺し絶やす。数千年の中国の皇帝史を読み返せば、そこには血と涙しかない。私は00年の総統選で勝利し、長く台湾を統治した国民党政権を終わらせた。『台湾の民主化が実現した』と世界中から拍手喝采を受けたが、易姓革命という発想しかない国民党関係者からみれば、私は大きな罪を犯した。だから、馬政権発足後すぐにターゲットにされた。理不尽な理由で投獄されたのは大変つらいが、台湾の民主化のために背負わなければならない十字架だと考えている」