南シナ海仲裁裁定“無視”して2年 中国の実効支配着々…「法の支配」揺らいだまま

緊迫・南シナ海

 【シンガポール=吉村英輝】国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)が2016年7月、南シナ海のほぼ全域に「歴史的権利」があるとした中国の主張を全面的に退けて2年以上が経過した。中国は裁定を無視し、南シナ海に築いた人工島の軍事拠点化を着々と進めている。紛争回避に向けたルール作りを目指す東南アジア諸国の足並みは乱れており、日本が求める「法の支配」は揺らいだままだ。

 「外部からの邪魔を排除できれば、行動規範の交渉は進むだろう」。中国の王毅国務委員兼外相は今月2日、シンガポールで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)との外相会議後に会見し、南シナ海の紛争回避に向けた「行動規範」の条文作成に向け、たたき台の文書をまとめたことを自ら高く評価し、米国などを牽制した。

 中国とASEANは昨年8月、行動規範の大まかな内容を定めた枠組みを承認した。今年6月に条文の草案をまとめたとしたが、草案は各国の提案を列挙しただけ。非公表だが、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大のセイヤー名誉教授によると、A4判19枚で、完成までに少なくともあと3回はすり合わせを行うという。

 もっとも草案では、中国が「参加国は域外国との共同軍事演習は行わない」とし、例外には通知を受けた関係国の賛同を義務づける項目を提案。対案としてベトナムは、国連海洋法条約に沿った行動や、人工島の造成禁止などを盛り込んで真っ向から否定した。マレーシアも同条約に言及するなど、中国と折り合うのは難しい内容だ。

 条文策定作業の長期化が予想される中、中国は習近平国家主席が掲げる「海洋大国」実現へ、国有企業を巻き込み、南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島の人工島開発を大胆かつ粛々と進めている。

 東南アジア研究所(シンガポール)が今月発表した論文集によると、ミサイルも配備されたというファイアリークロス(同・永暑)礁だけで、中国はこれまで開発に、推定114億ドル(約1兆2600億円)を投じた。

 パラセル(同・西沙)諸島で始めているクルーズ船による中国人向け教育・観光ツアーは、スプラトリーの人工島にも拡大される見通しで、人工島造成を手がけた「中国交通建設集団有限公司」は、今後5年で154億ドルを投じ“ビジネス”を拡大する計画という。

 行動規範の条文草案では、フィリピンが中国と共同提案した条文もあり、カエタノ外相は「7~8割はもうできている」と楽観する。報道によると、今年末の習氏のフィリピン訪問を調整中で、仲裁裁定の「棚上げ」に応じたドゥテルテ比大統領は、南シナ海での共同資源探査を首脳間で合意する可能性が高いという。