シリア北部高まる緊張 アサド政権側、大規模攻撃の観測 大国の思惑錯綜

シリア情勢

 【カイロ=佐藤貴生】内戦が続くシリアの北西部イドリブ県をめぐり、軍事的緊張が高まってきた。反体制派武装勢力の“最後の砦(とりで)”に対し、アサド政権が大規模な掃討作戦に着手するとの観測が相次いでいるからだ。シリア北部に派兵している隣国トルコは戦火拡大を避けるため、アサド政権の後ろ盾であるロシアに協力を求めているが、アサド大統領はトルコを「違法な占領者だ」と非難。内戦には、トルコとの対立が深まる米国のほか、イランも関与しており、一触即発の事態も懸念される。

 アサド氏は7月下旬、「イドリブは私たちのゴールであり、(大規模攻撃の)最優先の一つだ」と述べた。8月上旬にはイドリブやその周辺でアサド政権側とロシアによるとみられる空爆があり、民間人約30人が死亡。政権側が投降を呼びかけるビラをまいたとの報道もある。

 多くの反体制武装勢力は、各地で政権側との戦闘に敗れ、撤退交渉を経てイドリブ県へ移動した。中でも最大勢力の国際テロ組織アルカーイダ系「シリア解放機構」(旧ヌスラ戦線などで構成)は、数千人の戦闘員を擁するとされる。

 イドリブは政権にとり、是が非でも奪還したい戦略上の重要地点だ。西にはアサド氏ら政権中枢の出身地ラタキアや、ロシア軍が駐留するヘメイミーム空軍基地もある。カイロ・アメリカン大(エジプト)のカジーハ教授は取材に、イランも政権側と連携してイドリブの戦闘に関与する可能性があるとの見方を示した。

 一方、イドリブの北方では、米国の支援を受ける少数民族クルド人の民兵組織「人民防衛部隊」(YPG)の掃討のため、トルコ軍が越境し駐留。トルコと米国は最近、トルコでの米国人牧師軟禁をめぐり制裁関税の応酬を展開するなど関係が極度に悪化している。

 トルコはイドリブ周辺に10カ所以上の施設を設けて情勢を監視。シリア解放機構と敵対する反体制派を糾合して組織化するなど、介入の度合いも深めているだけに、アサド政権側が大規模攻勢に乗り出せば情勢は一気に緊迫しかねない。

 トルコの英字紙、ヒュリエト・デーリー・ニューズ(電子版)によると、同国のチャブシオール外相は8月中旬、ラブロフ露外相に対し、「一方的な大規模作戦」に反対する意向を伝えた。しかし、ラブロフ氏は「アサド政権にはテロリストを排除する権利があり、ロシアにはその作戦を支援する権利がある」と述べたという。