「建国70年」を祝えない韓国 来年を100周年とすえ、北との歴史共闘目指す文在寅氏

激動・朝鮮半島
15日、ソウルで開催された「光復節」の記念式典で、韓国旗を振る文在寅大統領と金正淑夫人(前列中央)ら(AP)

 【ソウル=桜井紀雄】韓国にとって15日は新国家成立70年に当たるが、政府が「建国70年」を祝賀することはなかった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が1919年の亡命政府発足を「建国」とみなし、前政権までの「48年建国」説を否定したからだ。文氏はさらに独立運動からも100年となる来年に向け、北朝鮮との“歴史共闘”を進めようとしている。

 文氏は15日、日本統治からの解放に当たる「光復節」の演説で、「南北間に平和を定着させ、自由に往来して一つの経済共同体をつくることが、われわれにとって真の光復だ」と強調した。緊張緩和や平和定着を条件に、北朝鮮との境界地域に「統一経済特区」を新設することも表明した。

 北朝鮮との協力強化は経済にとどまらない。文氏は日本からの独立運動である3・1運動から100年となる来年に南北共同で記念事業を行う計画を打ち出している。14日には、中国で初代韓国統監の伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)の遺骨発掘を北朝鮮と協力して進める方針を明らかにした。

 国内では、中国での亡命政府である上海臨時政府が発足した19年4月を「建国」とみなす近代史の“書き換え”を進めている。小学生の社会科教科書にあった「48年8月15日に大韓民国樹立」との表現が今年から「政府樹立」に変わった。中高生の歴史教科書でも同様に記述を変更する試案が示されている。

 根底に流れるのは、48年の李承晩(イ・スンマン)から朴正煕(パク・チョンヒ)らに続く保守政権を「親日勢力」を温存した政権とみなして清算しようとする考えだ。文氏自身、「政治の主流勢力を交代しなければならない」と主張してきた。

 保守系団体が15日に合わせ、「建国70年記念切手」の発行を計画したが、郵政事業本部が拒否。15日の政府主催の式典も「光復73周年」と並んで「政府樹立70周年」とだけ銘打たれた。建国70年を否定する動きに対し、最大野党、自由韓国党は「韓国の正統性を政府自ら否定することだ」と強く反発している。

 一方、北朝鮮は9月9日の建国70年を祝う大規模行事に向けた準備を進めている。北朝鮮にとって金日成(キム・イルソン)の抗日革命史だけが正統な歴史であり、3・1運動は「失敗したブルジョア蜂起」程度の評価でしかない。こうした歴史観の乖離(かいり)の中、韓国内では、あえて北朝鮮に歴史共闘を呼びかける文氏の姿勢を疑問視する声も少なくない。

【用語解説】韓国建国をめぐる論争

 韓国初代大統領の李承晩は1948年8月15日に大韓民国の樹立を宣言。国際社会も正式に承認したことから、朴槿恵(パク・クネ)前政権は「48年に大韓民国樹立」とする国定教科書の編集を進めた。文在寅大統領はそれを否定し、大韓民国の国号の下、憲法を準備した臨時政府が中国に発足した19年4月11日を建国と位置付けて来年、100周年を記念する事業を推進している。