次のガザ戦争は近い? 「燃える凧」作戦で危機煽ったハマス、イスラエルはやられたらやり返す

中東見聞録
6月4日、ガザ中部のイスラエル境界付近で、燃焼物を結びつけた凧を飛ばすパレスチナ人の若者ら。子供も手伝っている(ロイター)

 パレスチナ自治区ガザを支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの間では、数年に一度の頻度で“戦争”が起きているが、このところ、次の戦火が近いとの観測が浮上していた。厳しい経済封鎖下にある中、ハマスは、燃焼物を結びつけた凧(たこ)や風船をイスラエル領に飛ばすという新たな抵抗手段を編み出し、住民らを動員。これがイスラエル側を刺激して報復空爆につながるなど緊張が高まっている。(前中東支局長 大内清)

「被害者」をアピール

 ガザでは3月末以降、イスラエルとの境界フェンスを乗り越えようとするデモ行進が続いている。ガザ住民の大部分を占めるパレスチナ難民が、イスラエル領内にある「父祖の地」に帰還する-とのスローガンを掲げた運動だ。米大使館のエルサレム移転に対する反発も相まって大規模化し、多くの住民が境界線をはさんでイスラエル軍と対峙。これまでにイスラエル側からの発砲や催涙弾でパレスチナ人百数十人が死亡、1万数千人が負傷した(イスラエル側では、ガザからの銃撃で兵士1人が死亡)。

 凧や風船を使う手法は、その中で生まれた。火炎瓶などを結びつけてイスラエル側へ飛ばし、畑や森林に火を放ってイスラエル側を消耗させるためだという。

 ただ、イスラエルはガザ周辺で厳重な監視態勢を敷いており、延焼範囲は、デモを動員しているとみられるハマスが期待するほどには広がっていない。

 しかも、イスラエルは必ず、やられたらやり返す。

 「燃焼凧・風船」作戦に関しても、限定的ながら、たびたび関係するハマス拠点などを攻撃。7月9日には、イスラエルからガザへの物資搬入をさらに制限するなどの報復措置も講じている。1日の電気供給が数時間しかないなど、すでに困窮を極めているガザの生活がいっそう苦しさを増すのは目に見えていた。

 にもかかわらず、ハマスはなぜこのような挑発行動を繰り返すのか。

 まずは、存在感の誇示だ。正式名称を「イスラム抵抗運動」というハマスは、目に見える抵抗の成果を示し、求心力を保たなくてはならない。その上で、世界の耳目を集め、国際社会の反イスラエル世論を喚起することも狙う。

 一連のデモでは、家族に連れられて行進に参加した乳幼児が催涙ガスを吸い込んで死亡するなどのケースもあり、非武装の住民に対するイスラエル軍の武力行使の例として広く報道された。ハマスにとって、こうした「痛ましいニュース」は、同国の不当性を訴える“武器”である。「燃焼凧・風船」を飛ばす活動家が殺害されるなどすれば、やはり圧倒的な武力差で虐げられる「被害者」だと訴える材料となる。

若者の閉塞感を利用

 ガザは人口に占める若年層の割合が非常に大きく、若年失業率が極めて高い。封鎖状態にあるガザの外に出ることもできない。そこに今回のようなデモが計画されると、強い閉塞感を抱えた若者たちが発散の場を求めて集まるのだが、結局はイスラエル側に蹴散らされ、死傷者が増えていく。ハマスは、住民の命を闘争に利用しているといえる。

 このほか、イスラエルのメディアなどには、ハマスが、ガザのみならずパレスチナ全体を新たなインティファーダ(反イスラエル闘争)に駆り立てるためにデモを組織しているとの分析がある。

 さらには、遠からぬ将来に起きるであろうパレスチナ自治政府主流派ファタハとの権力闘争をにらんだ動きだとの見方もある。それによれば、自治政府トップのアッバス議長は82歳と高齢な上、イスラエルとの交渉でパレスチナ国家樹立を目指す「2国家共存」路線の行き詰まりや、根深い汚職体質でファタハの求心力が低下していることから、ハマスこそがパレスチナを代表する勢力だとアピールしているのだという。

八方ふさがりのハマス

 とはいえ、もっとも重要な要素は、ハマス自身も八方ふさがりの状態にあるということだろう。

 2008~9年、12年、14年と続いたイスラエルとの戦争の爪痕は深く、経済封鎖によって締め上げられたまま。ガザ南端で隣接するエジプトは、ハマスの源流であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団と敵対しており、ハマスに甘い顔をみせることはない。その上、米国には歴代政権以上に親イスラエル姿勢が鮮明なトランプ大統領がいる。イランなどから調達してきたとされるミサイルなどの兵器の入手も難しくなっている。このままではじり貧だ。

 だからハマス指導部は、この状況をかき乱す必要に迫られている。どんな形であれ局面が変われば、次の手を打つ余地が生まれるからだ。3月以降の動きの理由は、ここに行き着く。

 だが、当然ながら、こうした瀬戸際戦術には大きなリスクがある。イスラエルが本格的な武力行使に踏み切れば、ガザ住民に多数の犠牲が出るのは避けられない。イスラエルではガザ再占領さえ含めた多くの軍事オプションが検討されているとされ、同国の出方次第ではハマスの支配が根底から揺らぎかねない。

 国連やエジプトの仲介などもあって、イスラエルは24日、いったんは強めたガザへの物資搬入制限などを一部緩和。ひとまず危機は遠のいた感があるが、そもそもイスラエルがガザへの警戒を緩めることはあり得ない。ハマスがイスラエルの態度を読み間違え、現状変更を図ろうとするなら、大規模な衝突に発展する可能性はまた急速に高まることになる。