ロシア疑惑とフェイクニュース 古森義久 

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2016年米大統領選のロシア関与疑惑を捜査するロバート・ムラー特別検察官(ロイター)

 米国大統領選での「ロシア疑惑」を捜査している特別検察官の今回のロシア軍情報機関要員12人の起訴は、トランプ陣営とロシア政府との共謀を非難してきた民主党側の主張の限界を示したようだ。今回の起訴でも「米国人の関与はない」ことが司法当局から明言されたからだ。

 同時に反トランプ志向のワシントン・ポスト紙の記者が起訴状を誤読して、「共謀」説を発信し、他メディアからフェイクニュース扱いされる一幕もこの「疑惑」の政治性を象徴していた。

 2017年5月に任命されたモラー特別検察官は、16年の大統領選でトランプ陣営とロシア政府機関が共謀して米国有権者の票を不当に動かしたのではないかという疑惑を主対象とする捜査を始めた。

 今回の起訴はロシア軍参謀本部情報総局の要員たちが16年3月ごろから民主党ヒラリー・クリントン候補の選挙事務所、個人事務所、民主党全国委員会などのサイトにハッカー攻撃をかけ、内部情報を盗み、拡散し続けたという罪状だった。

 ただしこの捜査を総括するローゼンスタイン司法副長官は「この起訴では米国人のかかわりはなく、選挙の結果が影響を受けた事実もない」と明言した。特別検察官のこれまでの捜査でも起訴された人物は多数いるが、罪状はみなロシア側の一方的な選挙干渉か、選挙とは無関係の案件だけに終わってきた。トランプ陣営とロシアの共謀の事実はなにも出てこないのだ。

 議会でも下院情報特別委員会は「ロシア疑惑」への大規模な調査を進め、今年3月には共和党主導とはいえ「トランプ陣営とロシアとの共謀はなかった」との結論を出し、特別検察官の捜査終了を提言した。だが民主党側ではなお捜査の継続を求めているわけだ。

 その民主党側の主張を代弁することが多いワシントン・ポストでは一線記者のクリストファー・イングラム氏が起訴状発表の直後に「トランプ陣営とロシアの共謀がこれで証明された」という趣旨の記述を一連のツイッターで発信した。

 イングラム記者は16年7月27日に当時のトランプ候補が記者会見で冗談まじりに「ロシアよ、もし(この発言を)聞いているなら、3万件の(国務長官時代のクリントン氏の)行方不明のメールをみつけてほしい」と述べたことと、今回の起訴状の一部の「同7月27日ごろロシア軍要員はクリントン個人事務所のメールサイトに初めて不正侵入を始めた」という記述を結びつけて、「共謀」の存在を断じていた。

 同記者は「ロシア政府はトランプ氏の指示に応じてクリントン陣営へのハッカー攻撃をこの時点で初めて開始した。これぞ共謀の証明だ」と発信し続け、多数のメディア関係者がそれを引用し、転送した。だが起訴状はロシアのクリントン陣営への攻撃はその4カ月前の16年3月から広範に始まり、同7月下旬に始まったのはその一端のクリントン個人事務所への攻撃にすぎないとしていた。

 イングラム記者はこの重要な違いを誤読か、曲読して「共謀」と断じたわけだ。

 この経緯は保守系のネット新聞「ワシントン・フリービーコン」がフェイクニュースの典型例として詳細に報道し、同記者自身もミスを認めた。(ワシントン駐在客員特派員)