「北、なお核兵器保持の狙い」「米朝会談で利益得るのは中国」 中国軍事戦略の専門家ウォーツェル氏に聞く 古森義久

激動・朝鮮半島
インタビューに応じる、米中経済安保調査会のラリー・ウォーツェル委員(鴨川一也撮影)

 米国議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員で中国や東アジアの安保問題の専門家、ラリー・ウォーツェル氏が15日、産経新聞のインタビューに応じ、米朝首脳会談の成果や意味について語った。同氏は「北朝鮮はなお核兵器の保持を狙いつつ米側との厳しい非核化交渉を進めるだろう」と述べる一方、米朝間の新たな動きによって大きな利益を得るのは中国であり、日本は防衛強化が必要になると強調した。

 ウォーツェル氏はまず、米朝会談の結果を踏まえた北朝鮮の非核化の見通しについて「金正恩朝鮮労働党委員長の真意は北朝鮮が核兵器保有国として米国などに認知され、対米外交関係を樹立することだろうが、トランプ政権との合意により今後、非核化を目指しての長く厳しい交渉に応じ、その交渉を進めていくと思う」と述べ、北朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」の実現は簡単ではないとの見解を述べた。

 ウォーツェル氏は米朝会談の結果自体に関して「会談から利得を受ける主要な受益国は中国だ」と強調し、その理由を以下のように説明した。

 (1)トランプ大統領が総括の記者会見で述べた米韓合同軍事演習の停止や在韓米軍の撤退はいずれも中国が長年、求めてきた戦略目標であり、アジア全域での米軍の存在を縮小するという習近平政権の政策に合致する(2)金正恩氏が米朝首脳会談への往来に中国国際航空機を使ったことに象徴されるように北朝鮮は米国との協議に際し、中国を関与させており、朝鮮情勢への対処から最近、やや外れた感じのあった習近平政権にとって大歓迎の事態となった(3)中国は北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党体制が続き、商品経済を導入して中国との貿易を拡大することが狙いの一つだが、米側の北朝鮮への安全の保証はこの意図に役立つ。

 ウォーツェル氏はトランプ大統領の米韓軍事演習の停止発言については「北朝鮮が新たに挑発的な行動を取らない限り、今年8月に予定された乙支フリーダムガーディアン演習が停止されるのだろうが、米韓両軍は他の多様な方法でも合同演習はできる」としながらも、米側のこの動きは朝鮮半島情勢の不安定化につながりかねないと述べた。トランプ大統領が記者会見で述べた在韓米軍撤退の可能性について、ウォーツェル氏は「まだ尚早であり、米韓両国で反対が起きるだろう」と語った。

 日本については「拉致問題で金正恩氏はまだ明確な発言をしていないようで残念だが希望はある」と述べる一方、今後、中国が東アジア地域で外交的にも軍事的にも影響力を強めるとして、「日本は米国との安保政策の協調を深めて中国に対する必要があり、北朝鮮の核やミサイルの脅威もなお残る以上、在日米軍との連帯による防衛一般、とくにミサイル防衛の抑止強化が求められる。日本の国会議員たちが米側の議会との連絡を緊密にして日米同盟を堅固にすることが特に効果を発揮すると思う」と語った。(ワシントン駐在客員特派員 古森義久)

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 ■ラリー・ウォーツェル氏 米陸軍情報将校として北京駐在の武官を2度務め、国防大学教授、ヘリテージ財団アジア部長などを歴任。2001年から現在まで議会の超党派の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員長や委員を務めてきた。中国軍事研究の権威。