具体性に欠けた共同声明 トランプ氏、直感で合意? 北のシナリオを既成事実化

米朝首脳会談

 【ソウル=名村隆寛】史上初の米朝首脳会談でトランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が署名した共同声明は、「包括的」(トランプ氏)で、北朝鮮の核問題をめぐる過去の合意文書に比べ、具体性に欠けるものだった。一方の北朝鮮には、これまで以上に満足できる合意内容のようだ。

 米朝会談では「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」で合意できるかが最大の焦点だった。だが、共同声明では、北朝鮮が「朝鮮半島の完全非核化に向けた努力を約束する」に終わった。非核化を保証するのは「米朝相互の信頼醸成」だけという。

 その見返りとして、トランプ氏は「安全の保証」を金正恩氏に約束した。金正恩政権が繰り返し要求してきた“宿願”の体制保証を確約したわけだ。

 1994年の米朝枠組み合意では黒鉛減速炉などの凍結や国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れが明記され、同合意を確認した2000年の米朝共同コミュニケでは協議継続中の長距離ミサイルの発射中止が盛り込まれた。

 05年の北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の共同声明では、朝鮮半島の検証可能な非核化や、北朝鮮の核拡散防止条約(NPT)とIAEAへの早期復帰で合意した。

 いずれも今回同様に「朝鮮半島の非核化」は含まれ、北朝鮮への見返りも認められた。しかし、北朝鮮の約束ほごで合意は破棄、霧散の繰り返し。今回の共同声明についても、韓国国内では「05年の共同声明よりも後退した」(朝鮮日報)との見方が一般的だ。

 首脳会談の直前まで、米国は北朝鮮との実務協議を重ね、相応の具体的な合意が展望されていた。しかし、共同声明は非核化をめぐる期限や検証について一切触れていない。

 米朝首脳会談を終えたトランプ氏は12日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との電話会談で「実務陣ではでき難い、期待以上の成果を今回の会談ではできた」と語ったという。その言葉からは、トランプ氏が首脳会談まで積み重ねた実務協議をあまり考慮せずに、金正恩氏との直談判に臨み、慎重さを欠き直感で包括的な合意に至った可能性も否定できない。

 さらに、金正恩氏と再会を約束して別れたトランプ氏は、記者会見で金正恩氏を激賞するだけでなく、米韓合同軍事演習を中止する意向や、将来的な在韓米軍の縮小、撤収の可能性まで口にした。金正恩氏にとり、共同声明をはるかに超える最高のリップサービスであり、プレゼントだ。

 案の定、朝鮮中央通信など北朝鮮メディアは13日朝早速、「トランプ米大統領が、朝米対話が行われている間は、米韓合同軍事演習を中止する意向を表明した」と報じた。

 米朝首脳会談では朝鮮戦争の終戦宣言が出されなかった。北朝鮮は終戦宣言を理由に、米韓演習の中止や在韓米軍の撤退を求めるというシナリオを描いていたとみられる。こうした展望は、トランプ氏の想定外の発言によって既成事実化され、一気に現実味を帯びたものになった。