金正恩氏が米大統領相手に演習中止を“勝ち取った”と印象付け…国内向けに対米融和を正当化も経済的成果は「ゼロ」

米朝首脳会談
 トランプ米大統領との会談で笑顔を見せる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=12日、シンガポール(朝鮮中央通信撮影・共同)

 【シンガポール=桜井紀雄】北朝鮮国営メディアは13日、米朝首脳会談の内容を詳細かつ大々的に報じる異例の報道を展開した。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の“英断”のおかげで、超大国の大統領相手に米韓合同軍事演習の中止といった成果を勝ち取ったと印象付ける内容だ。国内向けに非核化措置や対米融和路線を正当化する意図も垣間見える。

 13日付党機関紙、労働新聞は1~4面に33枚もの写真を掲載し、12日の会談の結果を伝えた。正恩氏が対北強硬派で知られるボルトン米大統領補佐官と笑顔で握手する場面まであった。

 13日未明には、正恩氏は帰路の機上にあり、異例の“速報”態勢の裏に、宣伝扇動部門を指揮する妹の金与正(ヨジョン)党第1副部長の影響を指摘する分析もある。

 朝鮮中央通信の記事では、正恩氏が「勇断」を促したのに対し、トランプ大統領が米韓演習の中止に応じたと、あたかも会談を正恩氏がリードしたかのような報道ぶりが目立った。正恩氏が「年初から講じた主導的で平和愛好的な措置により、数カ月前まで軍事的衝突の危険が高まっていた朝鮮半島に平和と安定の雰囲気が到来した」とトランプ氏が評価したとも伝え、会談は正恩氏の決断の成果である点を強調している。

 「意義深い言葉」だとして「誤った偏見と慣行が目と耳をふさぎもしたが、全てを果敢に踏み越えてこの席に来た」との会談冒頭の正恩氏の発言に焦点を当てた。長年の“党是”ともいえる対米敵視路線を「偏見」と切り捨てたことに等しい。「数十年続いた敵対的関係に終止符を打つ」路線に180度転換したことを党幹部や住民らに知らしめる狙いが読み取れる。

 正恩氏は核開発との両立から経済建設に特化する方針も打ち出しているが、経済再建の鍵である制裁解除については「交渉を通じ、関係改善が進めば」という条件付きでトランプ氏が解除に言及したとしている。住民らが渇望する経済面での目に見える成果は得られなかったわけだ。正恩氏は国内の要求も意識しながら、本格的な非核化交渉に入っていかざるを得ない。