【米朝首脳会談】それでもショーは続く 執行役員東京編集局長 乾正人 - 産経ニュース

【米朝首脳会談】それでもショーは続く 執行役員東京編集局長 乾正人

 共同声明の署名を終え、トランプ米大統領(右)の背中に手をやる北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=12日、シンガポール(ロイター)
 政治はショーである。
 古代ローマでは、声と身ぶり手ぶりで聴衆を陶酔させた雄弁家が、リーダーとなった。ヒトラーは、ナチス党員による幻想的なたいまつ行列と女性映画監督リーフェンシュタールの才気あふれる映像美とでドイツ国民を掌握した。ケネディはテレビ討論でのショーアップの仕方を徹底的に研究してニクソンを圧倒した。
 米朝首脳会談は、トランプを大統領に押し上げる原動力となったリアリティー番組(予知不能な現実に素人が直面するさまを描く番組)そのものだった。
 舞台はエキゾチックなシンガポール、相手役に謎に包まれた大物三代目を迎え、会談開始をテレビのゴールデンタイム(米東部時間)にあわせた。もちろん、「(会談は)どうなるかわからない」などと、ツイッターをフル活用して前評判をあおりにあおった。
 リアリティー番組にやらせと演出はつきものだ。会談は米朝の事前協議通り進み、発表された共同声明に中身がないのもショーだと割り切れば、納得がいく。2人が握手する映像は、プロパガンダ(宣伝)よろしくNHKでも民放でも何度も繰り返し流されたが、それを見ていると、はるか昔にテレビで見た“ショー”を突然思い出した。
 異種格闘技世界一を競ったアントニオ猪木とモハメド・アリの一戦である。
 42年前の6月26日に東京で行われた「世紀の一戦」は、ふたを開けてみれば、寝転がって足技をかけようとするばかりの猪木と、なすすべもなく立っていただけのアリという「世紀の凡戦」となった(やらせなしだったから凡戦になった、という説もあるが)。
 それでもトランプと金正恩による「二人のビッグショー」は、舞台を平壌、ワシントンに移してまだまだ続くだろう。問題は、ショーの木戸銭がべらぼうな額になりかねないことだ。
 「北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化を約束した」といっても約束は破られるためにある。第一、日本人拉致問題解決への道筋は一向に見えなかった。このまま事態が進めば、金正恩体制を維持するためのツケが日本にまわりかねない。
 「ショーほど楽しいものはない」と両座長は喜んでいるだろうが、猪木・アリ戦では終了後、怒った観客がリングにモノを投げつけ、罵声を浴びせたという。この際、安倍晋三首相は盟友にハッキリいうべきだろう。「三文芝居に出すカネは一文たりともない」、と。