徴用工像設置阻止から1カ月 像撤去、背景に対日関係悪化への危機感 慰安婦像は変わらず設置のまま

歴史戦
韓国・釜山の日本総領事館付近の歩道上に置かれた徴用工像(共同)

 【ソウル=名村隆寛】韓国・釜山(プサン)の日本総領事館近くの歩道上に置かれていた「徴用工像」が、丸1カ月を経て、ようやく撤去された。「関連法令と外交公館の保護に関した国際礼譲と慣行から設置は不適切」とする韓国政府の判断によるもので、当然の措置だ。

 結果的に、韓国国内の世論も考慮し、1カ月の猶予を与えた末の撤去ではあるが、背景には日韓関係の一層の悪化を避けたい韓国政府の事情がある。元徴用工の個人請求権は1965年の日韓請求権協定で消滅し、政府間では解決済みだ。韓国歴代政権はこの政府見解を踏襲しており、文在寅(ムン・ジェイン)大統領も公式にはこれに従う姿勢を示している。

 日本政府は再三、徴用工像設置の動きへの懸念を伝えており、韓国側も「外交的な摩擦を呼ぶ可能性が高い」(韓国外務省)と懸念を強めていた。しかも、5月上旬に文大統領が就任後、初めて訪日し対日関係改善の契機を作ったばかり。韓国政府は今回の措置で、対日関係をめぐり国益を損なうことは回避した。

 ただ、徴用工像は難航の末に撤去されたが、ソウルの日本大使館前と釜山の日本総領事館前には現在も、慰安婦問題をめぐる日韓合意の精神に反し、慰安婦像が置かれている。一貫した立場で懸念を伝えた日本に対し、文政権は努力をアピールしたものの、日韓の重要な懸案は残っている。徴用工像問題で混乱する前の状態に戻ったにすぎない。

 しかも、韓国当局は「国立日帝強制動員歴史館」に運んだ徴用工像を、ここで一時保管するという。解決済みで日韓が合意した徴用工の像を国立の施設で保管するという新たな矛盾が浮上している。韓国国内の事情に振り回されてきた日韓関係の改善は、迷走してきた文政権の対日政策の正常化に今後もかかっている。