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有料メディアの増加が、新たな「エコーチェンバー」を生みだそうとしている

 生き残りをかけて有料化していくメディアやニュースレター。一方で、読者が有料の情報源にかけられるお金は有限であり、ひとりが閲覧できるメディアの数は必然的に少なくなっていく。こうした状況の先に待ち受けるのは、ソーシャルメディアのそれとは違う、新しい「エコーチェンバー」のかたちだ。

TEXT BY MARK HILL

TRANSLATION BY NORIKO ISHIGAKI

WIRED(US)

PHOTO-ILLUSTRATION: SAM WHITNEY; GETTY IMAGES
PHOTO-ILLUSTRATION: SAM WHITNEY; GETTY IMAGES

近ごろはどのニュースサイトを見ても、無料で閲覧できる記事本数を超えたことを告げるポップアップの“壁”が立ちはだかる。膨大なトラフィックをソーシャルメディアに吸収され、広告収入が落ち込み、業界全体で一時解雇の嵐が吹くなか、生き残りを図るメディアをペイウォール(課金の壁)が救っているのだ。

逆に勢いを増しているメディアもある。『ニューヨーク・タイムズ』は2020年、第1四半期のオンライン版の新規購読者が史上最多の58万7,000人を記録した。未公開株の不適切な扱いなどで炎上したニュースサイト「Deadspin」(デッドスピン)の焼け跡から立ち上がった「Defector」(ディフェクター)は軌道に乗り、購読料収入は少なくとも年200万ドル(約2億1,000万円)に達するという。政治メディア「The New Republic」はDefectorを「メディアの未来」になりうる存在と評している。

ペイウォールがより一般的になり(米国の新聞社のペイウォール導入率17年時点で60%だったが、19年には76%まで伸びている)、より厳格になっていく(プライベートモードでの閲覧といったペイウォールを回避する裏技への対策が強化されている)なか、大半の読者は購読するニュースサイトを1カ所に絞るようになっている。

そうなると、メディアの様相はインターネット以前の姿に似てくる可能性があるだろう。つまり、ひとりの消費者がさまざまな視点に触れて考察を深めることが難しく、コストがかかった時代である。

読者はいくら払えるか

こうした分断はどこまで進むのだろうか。動画配信サービスの場合を考えてみよう。

動画配信サービスの人気は、文字の世界のそれとは桁違いだ。『ニューヨーク・タイムズ』の購読者数がオンライン版と紙版を合わせても650万人である一方で、Netflixの契約者数は1億8,300万人に達する。それでも19年半ばの時点で米国人が動画配信サービスに費やしている額は月あたり平均29ドル(約3,000円)にとどまり、契約しているサービスの数はひとり当たり3.4件だ。

仮に消費者が動画配信サービスと同じくらいの額をオンラインメディアに費やそうと考えたとしても、購読できるメディアの数はたかが知れている。『ニューヨーク・タイムズ』(2020年12月時点で月17ドル、約1,850円)と「Defector」(同月8ドル、約840円)を購読すれば、もう予算はほとんど残らない。あるいは『ワシントン・ポスト』(同月8.33ドル、約880円)と地元紙(『デンバー・ポスト』なら同月14.99ドル、約1,580円)、ニュースレタープラットフォーム「Substacks」から1~2本(「BuzzFeed」の記者だった人気ジャーナリストのアン・ヘレン・ピーターソンのニュースレターは同月5ドル、約530円)を購読すれば、あっという間に30ドルになる。『ボストン・グローブ』(同月27.72ドル、約3,000円)なら、ひとつだけで予算いっぱいになる。

つまり、読者が喜んで大枚をはたきたいと思わない限り、インターネット上のコンテンツに相当の購読料を払うこと自体が、単に金銭的に不可能なのだ。

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