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複雑な課題を解くカギは「耐える力」にある? ネガティヴ・ケイパビリティの技法を学ぶ

日本の小説家である黒井千次は「知り過ぎた人」という論考にて次のように書いています。「それにしても、とあらためて考えざるを得なかった。謎や問いには、簡単に答えが与えられぬほうがよいのではないかと。不明のまま抱いていた謎は、それを抱く人の体温によって成長、成熟し、更に豊かな謎へと育っていくのではあるまいか。そして場合によっては、一段と深みが増した謎は、底の浅い答えよりも遥かに貴重なものを内に宿しているような気がしてならない」

ネガティブ・ケイパビリティとは、宙ぶらりんな状態に耐えた先に、必ず深い発展的な理解が待ち受けていると確信し、耐えていく持続力を生み出すものなのです。

希望を見いだす態度

ネガティブ・ケイパビリティは、「迷う能力」とも言い換えられるかもしれません。迷いを排除するために、マニュアル化が大手を振っている時代です。迷うなかから生まれる思索や認識なりが軽視され、迷うこと自体が悪だと思われています。

でもネガティブ・ケイパビリティは迷ってもいいということですし、時間軸をなくしたものの見方とも考えられます。例えば、ギャンブル依存症は近位と遠位の報酬経路が崩れることが原因だといわれています。

遠位の報酬とは、いま勉強すればよい大学に入れるという遠い未来を考えるもので、近位は目先の報酬を求めてしまうこと。ギャンブル依存症の方は近位報酬が遠位報酬をハイジャックしている状態。いま短期的な問題解決や答えばかりを志向してしまう人間は、ギャンブル化した脳みそになっているのかもしれません。だからこそ、時間軸にとらわれない能力が重要になってきます。

また、ネガティブ・ケイパビリティは諦めることを意味していません。いまは変えられないとしても、その不確実な状態に努力して耐え、希望を見いだしていく態度です。患者とともにそれを見いだしていくことが、治療者のあるべき姿でしょう。依存症の治療の多くは、初診での見通しは裏切られるんです。予測も想定もできないとしても、長期的思考で患者に寄り添いながら、前に進んでいくほかありません。

「どうすればこの能力を身につけられるんですか?」とよく聞かれますが、それ自体がマニュアル化に毒された考え方ですよね。この概念があると知り、頭のなかに入れて耐え続ける態度をもつだけで充分なんです。

ジョン・キーツがシェイクスピアにネガティブ・ケイパビリティを見いだしたように、芸術の分野では当たり前の態度でした。それは芸術の鑑賞者にも共通していて、現代美術などの簡単には解釈できない芸術作品を鑑賞する行為自体は、ネガティブ・ケイパビリティの醸成につながるかもしれませんね。

帚木蓬生-HOSEI HAHAKIGI

 1947年福岡県生まれ。作家、精神科医。東京大学文学部、九州大学医学部卒業。北九州市八幡厚生病院副院長を経て、現在、福岡県中間市で通谷メンタルクリニックを開業。作家として『三たびの海峡』『閉鎖病棟』『逃亡』など著書多数。臨床40年の経験を踏まえ『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』を上梓。

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