PR

WIRED WIRED

単細胞生物も「考えてから行動」する:ラッパムシの実験から見えた意思決定の分子アルゴリズム

数学が証明した段階的な行動

そこでこのたび、100年越しとなる再実験が実施された。グナワルデナ率いる研究チームは、“正しい”ラッパムシである「Stentor roeselii」を対象にマイクロブラスティックのビーズを刺激物として使用し、外部刺激に対してジェニングスが報告したような回避行動を再現した。

その結果、ある個体は縮こまる前に繊毛を変化させて体を曲げたが、別の個体はただ収縮を繰り返した。またある個体は、交互に体を曲げたり収縮したりした。それらは論文に記されていたような秩序めいた段階的行動には遠く、回避行動には大きな個体差があるように見えたという。

そこで研究チームは、数学的モデルを使用してラッパムシの行動をコード化し、統計的にパターンを分析した。結果をみると、やはりラッパムシの回避行動には明確な順序があったようだ。

それらは最初に体をくねらせ、次に繊毛の動きを変えた。刺激が続くと収縮または分離して泳ぎ去った。最初から収縮したり分離したりする個体はなく、そこには明らかな行動の優先順位が認められたのだ。

興味深いのは、最初に単純な行動をとっていたラッパムシは中枢神経系がないにもかかわらず、刺激が続くと別の解決方法を試すべく“決断”したことである。「この段階構造は、生体内で実施されている比較的複雑な意思決定の計算のかたちをいくつか鮮明に示しています。ある行動を実行するほうが別の行動よりも適切かどうかを判断しているのです」と、グナワルデナは言う。

細胞にプログラムされている「決断」のアルゴリズム

さらに分析の結果を見ると、ラッパムシが収縮するか分離して泳ぎ去るかの確率は、きれいに半々だったことが明らかになった。この行動からは、細胞が分子レベルでどのようにプログラミングされているかをうかがい知ることができる。

「分子レベルの公正なコイン投げによって、決断をとり決めているようなものです。わたしたちはこれを実行できる既知のメカニズムを知りません。驚くほど興味深い現象ですが、これを明らかにするには定量的な測定が必要だったので、ジェニングスには観察できなかったのでしょうね」

彼らの研究は、例えばわれわれの体内にある一つひとつの細胞がとりうる“行動”に対しての認識を改めることになるかもしれない。例えば、がん細胞はあたかも“プログラム”されているかのように行動する。「細胞は非常に複雑な生態系に存在します。ある意味、細胞は互いに話し合い、交渉し合い、信号に応答し、決定を下しているのです」

この実験はラッパムシだけではなく、単一の細胞が複雑な情報処理とそれに対応する意思決定をしているという、何らかの細胞の“認知”の存在を示唆するものと言える。「すべての生命は同じ基盤をもっています。われわれの研究結果は、現代生物学研究にこの種の考え方をとり入れるべきひとつの理由になることでしょう」

なお、今回の興味深い結果の詳細は、「Current Biology」で発表されている。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ブランドコンテンツ