PR

WIRED WIRED

古代のイヌのがん細胞は、こうして現代に生き延びて“伝染”する:英研究チームが見た「特異な進化」の秘密

 イヌのがんとして知られる「可移植性性器腫瘍(CTVT)」が、古代のイヌの体から現代のイヌの体へと6,000年を経て“伝染”し続けてきた方法は、宿主をできるだけ「生かす」というものだった--。そんな研究結果を英国の研究チームがこのほど発表した。世界中の症例サンプルに基づいた遺伝子マップからは、まれではあるがヒトで発症した場合の治療法にも役立つヒントが隠されている。

TEXT BY MEGAN MOLTENI

TRANSLATION BY MITSUKO SAEKI

WIRED(US)

交尾を通じてイヌの体に巣食い、増殖をいまなお続けるがん細胞は、絶滅したシベリア地方のイヌがこの世に唯一残していったものだ。OZKAN BILGIN/GETTY IMAGES
交尾を通じてイヌの体に巣食い、増殖をいまなお続けるがん細胞は、絶滅したシベリア地方のイヌがこの世に唯一残していったものだ。OZKAN BILGIN/GETTY IMAGES

ヒマラヤの高地で、衣のすそにじゃれつくように僧侶のあとを追う毛むくじゃらの犬がいる。パナマ共和国の首都パナマシティには、真昼の暑さから逃れようと、わずかばかりの日陰にうずくまる犬がいる。この犬たちは、いずれも体内でがんが進行している。

2匹はそれぞれ固有の腫瘍をもっているように見える。腫れて皮膚がただれた腫瘍の周辺が、1匹は尾の下部から、もう1匹は両脚の間から送られる血液のせいで紅潮するのが見える。だが、別々の大陸にいる2匹の体内でそれぞれに分裂を続けるがん細胞は、事実上同じ生命体だ。6,000年も生き続けているがん細胞の塊を、生命体と呼んでいいのなら、である。

この長命な細胞群は、もともと凍てつくシベリアの大地をうろついていた一匹のイヌの体の一部だった。人間が車輪や農具を発明する前の時代に生きていた、ハスキー犬に似たイヌだ。

やがて、これらの細胞は変異してイヌの免疫システムを逃れ、宿主であるイヌが死んでも別のイヌの体に乗り換えて生き延びるすべを見つけた。交尾を通じてイヌの体に巣食うこのがんは、現代もなお増殖を続けている。絶滅したシベリア地方のイヌが、この世に唯一遺していったものだ。

こうして何千年ものあいだ、無数のイヌの体から体へと飛び移り、ウイルスのように世界中に広がり続けている。イヌ科において主に交尾を通じて発生する伝染性の腫瘍である「可移植性性器腫瘍(CTVT)」の症例は、いまやアフリカのマラウイからオーストラリアのメルボルン、米国のミネアポリスまで世界各地で、近代のさまざまな犬種にわたって見られてる。

「特異な進化」の謎を解明へ

CTVTは、現在知られているなかで最も長命ながん細胞だ。しかし、そのDNAをこと細かに調べて進化の起源までさかのぼったり、まるでウイルスのような方法で生き残ってきた背景にある秘密を解明したりした者はこれまでいなかった。

こうしたことをなし遂げるために、世界中のほぼすべての国の獣医たちが資料収集にこの15年協力してきた。この症例に出くわすたびに、採取して腫瘍片を試験管に入れ、ケンブリッジ大学のエリザベス・マーチソンの研究室に送り続けてきたのだ。

マーチソンの名は、別の伝染性のがんに関する研究分野のほうで知られているかもしれない。タスマニアデビルを絶滅の危機に追い込んだがんの研究だ。彼女が率いる研究チームは、膨大に集められたイヌの腫瘍サンプルを使って、これまでなかったCTVTの遺伝子マップを作成している。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ブランドコンテンツ