30年後の地球に北極圏はない? いくつもの報告書が訴える気候問題の緊急性
いまから30年後には多くの都市が居住不可能になり、人々の移住が激増する--。米国で大統領と議会への提出が義務づけられている「全米気候アセスメント(NCA)報告書」や、英医学誌ランセットに掲載された論文などが、すでに起こり始めた危機を指摘している。残された時間が少なくなってきたなか、これらの報告書や論文は“未来”を変えられるのか?
TEXT BY ADAM ROGERS
TRANSLATION BY TOMOYUKI MATOBA/GALILEO
WIRED(US)
気候変動に関しては、多くの人たちが「もう知っている」と言う。しかしその実態は、いかにも人間らしい無知に溢れている。誰もが知っているというのに、実は誰も知らないのだ。
イェール大学の気候調査プログラムによれば、女性の74パーセント、男性の70パーセントが、気候変動は将来世代の人類に悪影響を及ぼすと考えている。しかし、自分自身がその損害を被ると考えている人は、女性の48パーセント、男性の42パーセントにすぎない。
当然のことだが、気候変動は現在のわたしたちにも、さまざまなかたちで被害をもたらしている。にもかかわらず、気候変動を「いまここにある問題」として認識している米国人は半数に満たないのだ。したがって、気候変動の影響に関する新たな報告書は、将来と同じくらい、現在にフォーカスしたものでなくてはならない。
いまこの瞬間も進行中の危機
目立つポイントを紹介しよう。2016年に熱波を経験した人口は、00年と比べて1億5,700万人増加し、うち1,230万人が米国人だった。熱波とそれによる健康被害は、世界で1,530億時間、米国で11億時間に上る労働時間の損失をもたらした。
デング熱、ジカ熱、マラリア、チクングニア熱を媒介する蚊の分布域は拡大している。コレラの病原体である細菌についても同様だ。世界の作物の総収量は減少している。
こんなニュースはもう古い--。そう思ったあなたは、米国政府が2018年11月23日(米国時間)に公開した、黙示録的な気候の混乱に関する報告書の話だと思ったのだろう。第4回全米気候アセスメント(National Climate Assessment:NCA4)第2巻のことだ(この報告書は、「1990年地球気候変動研究法」により4年に1回、大統領及び議会への提出が義務付けられているものであり、関係省庁及びさまざまな研究者で構成された米国地球気候変動研究プログラム (USGCRP)が作成したものだ)。