火星探査機インサイト、NASAのチームが語った期待と「困難な道のり」 - 産経ニュース

火星探査機インサイト、NASAのチームが語った期待と「困難な道のり」

 米航空宇宙局(NASA)が火星探査機「インサイト(InSight)」の打ち上げに成功した。11月下旬に火星へと無事に着陸できれば、地震計や熱流量測定装置を用いて内部構造を探ることになる。無事に火星に到達し、その謎を解明するまでの道のりはいかに困難なのか--。NASAのプロジェクトメンバーたちが語った。
米航空宇宙局(NASA)が、火星探査機「インサイト(InSight)」の打ち上げに成功した。火星に探査機を送り込むのは11年の「キュリオシティ」以来で、期待が高まっている。
火星の調査は大きな注目を集める。ほかの星のパノラマ写真や、そこを縦横無尽に走る探査車には誰だって興味がある。だが、NASAの最新の“スパイ”は動き回ったりはしない。インサイトはローヴァー(探査車)ではなく、ランダー(着陸船)なのだ。
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また、火星から夢のような写真が送られてくるとしても、それは地表の景色を写したものではないだろう。そもそもインサイトは「Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy, and Heat Transport(地震調査、測地学、熱伝達を使った内部探査)」の略で、今回の目的は火星の内部を調査することなのだ。
惑星物理学的なアプローチにより、火星および太陽系のほかの惑星の成り立ちや現在までに起こった変化、物質組成などについて、さまざまな謎が解明されるだろう。火星への到着は11月26日となる予定で、着陸地点は北緯3度に位置するエリシウム平原と呼ばれる広大な平野だ。
遠隔操作する“クレーンゲーム”
この場所が選ばれたのには2つの理由がある。インサイトは太陽光発電で得られた電力で動くが、エリシウム平原は日照量が多い。また内部探索のために穴を掘る必要があり、なだらかで掘削が容易なことが求められていた。ここで太陽電池パネルを広げて機器類を設置し、2年間におよぶ調査を始める計画だ。
インサイトは5本のかぎ状の指のついた長さ2.4mのロボットアームで、デッキ(観測機器が積まれたテーブルのような部分)から必要な機器を空中に持ち上げ、細心の注意を払いつつ火星の地面に置く。エンジニアたちはアームと地表近くに取り付けられた2基のカメラを駆使して周囲の状況を詳しく調べ、観測機器をどのように展開するか決める。
積載システムエンジニアのファラー・アリベイは、「ゲームセンターのクレーンゲームで遊んだことがありますか? 基本的には同じことです。ただし、何百万マイルもの距離を隔ててやることになりんですけれどね」と語る。作業には準備から計画立案、実行まで何週間もかかるのだ。
さらに、無人探査の研究・開発を行うNASAのジェット推進研究所(JPL)の「In-Situ Instrument Lab」も活用する。カリフォルニア州パサデナにあるこのシミュレーション施設では、火星の機器を実際に動かす前にアームの操作を練習することができる。ほかの惑星でロボットアームを使った機器の配備が行われるのは初めてだ。
いかに“マーズクエイク”を観測するか
インサイトには2つの観測機器が搭載されている。まずは「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」と呼ばれる内部構造を調べるための地震計だ。非常に精度が高く、火星の地震の揺れの大きさや速度、そして周波数などの計測に使われる。アースクエイクならぬ“マーズクエイク”を観測するのだ。
インサイトのプロジェクトマネージャーを務めるトム・ホフマンは、「地球で使われている地震計と同じくらい感度のよいものです。火星に蝶がいたとして、この地震計の上にそっと止まったとしてもわかりますよ」と言う。SEISは水素原子より小さい動きでも感知でき、マーズクエイクのほかにも、火星内部の液体の水の有無、過去に起こった隕石の衝突や火山噴火の痕跡なども検出できる。
SEISは敏感であると同時に頑丈だ。積載システムエンジニアのチームを率いるジョナサン・グリンブラットは、「一般的な地震計は丁寧に扱うことが必要です。また一度設置したら、そのあとは動かさないことを想定してデザインされています」と話す。
しかし、SEISの火星への旅は少しばかり刺激が多く、ロケットで発射して火星の大気圏への突入、下降、着陸を経ることになる。「振動や衝撃もたくさん受けます。そうしたことに耐えられるように頑丈でなければなりません」と、グリンブラットは言う。
また振動だけでなく、劇的な温度変化にも耐える必要がある。火星の赤道周辺の温度は晴れた夏の日中なら華氏70度(摂氏21度)前後になることもあるが、夜は華氏マイナス100度(摂氏マイナス73度)まで急落する。
このため、SEISは多層の保護レイヤーに包まれている。まずチタン製の真空の球があり、その次は断熱性のあるハニカム構造で、一番外側はバーベキューグリルの蓋のように全体を覆うドーム状の耐風耐熱シールドだ。
何週間もかけて地下深くまで計測
地震計の設置が済んだら、次は第2の観測機器「HP3(Heat Flow and Physical Properties Probe)」の番だ。巨大な釘のような18インチ(45.72cm)の探針(プローブ)をもつ熱流量測定装置で、地中16フィート(4.87m)の深さまで差し込むことができる。ここまで深いと地表面の温度変化の影響は受けない。
インサイトの副研究責任者スザンヌ・スマレカールは、「地球上で熱流量の計測をするには、もっと深い穴を掘らなければなりません」と話す。土が湿気を帯びているため、熱が深部まで伝わるからだ。「ですから相対的に見れば、火星は観測が簡単な星だとも言えます」
HP3にこの言葉を聞かせてやりたいものだ。火星の地面を目標の深さまで掘り進めるには何週間もかかり、途中で何回か休んで周囲の土壌の熱伝導率を調べる。
プローブには糸に通したビーズのように温度センサーが付いており、温度と熱流量の両方を計測することで、火星内部でどのくらいの熱が発生しているか知ることができる。熱量の大小は物質組成や地球との比較に役立つだろう。
「本当に難しい挑戦」
しかし、インサイトが火星の温度や揺れを観測するには、地球との間に広がる寂しく不毛な宇宙空間を旅して、無事に目的地に着陸しなければならない。胸が踊るが、同時に「すべてがとても恐ろしくもあります」とアリベイは言う。
「わたしたちが打ち上げようとしているロケットは、かろうじて制御できる爆弾のようなものです。打ち上げ後、6カ月も真空に近い空間で太陽エネルギーの荷電粒子にさらされ続けることになります。それに、火星に確実に到達する必要があります。失敗したからといってUターンして戻ってくるわけにはいかないのです。火星に着いたらうまく着陸しなければならず、それが済んだら次は機器類を展開する必要があります。この過程のどの部分でも、間違いは起こり得るのです」
アリベイは悲観論者ではない。彼女はエンジニアで、失敗や誤算に備えるのは仕事のうちだ。そして歴史を振り返れば、火星探査のミッションの成功率は50パーセントを割り込んでいる。
「自分たちが何をしているのかわかっていなかったから失敗したのではありません」と、アリベイは言う。「火星探査は本当に難しい挑戦なのです」
だからと言って、NASAが諦めることはない。結局のところ、宇宙に行くのは簡単ではないのだ。