もう土地がない。香港が「地下都市の開発」に動き出した その野心的なプロジェクトの全貌

 

 世界的に見ても人口密度が高く、住宅の超過密地帯として知られている香港。小さな島で横にも上にも居住スペースを広げてきたが、その努力も限界に達しつつある。そこで、ついに都市を地下に移し、生活スペースを広げようとする計画が進み始めた。

香港はその空間を使い果たしつつある。中華人民共和国の特別行政区である427平方マイル(約1,106平方キロメートル)には、700万人以上が居住している。カントリーパーク(国でいう国立公園)は陸地の41パーセントを占め、いずれも険しい丘に点在しているため、ビルを建てるのは難しい。高層建築の多くはすでに高さ規制の上限まで達している。

一方、住宅価格は2017年春、史上最高値を更新した。1平方フィート(約0.093平方メートル、約0.028坪)当たり1,500米ドル(約17万円)近くに上り、平均住宅価格は180万米ドル(約2億410万円)にまで上昇している。

政府は郊外での区画整理と増築を検討すると同時に長期的な戦略も模索し、より多くの不動産をつくり出そうとしている。何をすべきか。香港特別行政区土木開発局の地盤エンジニアによると、答えは「下」にあるという。つまり地下、新たに建設する洞窟にあるというのだ。

生活インフラは「地下」、居住空間は「地上」

同局の主任地盤エンジニアであるトニー・ホウは「香港都市部の平坦な土地にはすべて、すでにビルが建てられています」と語る。香港政府は1980年代初めから、丘陵地帯に洞窟を建設し、開発するというアイデアを模索してきた。

17年には実現に向けた包括的な調査を完了し、洞窟を掘削する予定の48カ所を決めた。長期的に開発を進める0.1~0.8平方マイル(約0.3~2平方キロメートル)の範囲になる予定だ。プロジェクトを推進するための研究が6つ以上、すでに進行している。

このプロジェクトは17年11月、国際トンネル協会の「革新的な地下空間コンセプト賞」を受賞した。授賞式は毎年、あの華やかな都市・パリで開催されている。香港の勝利は「地下墓地にするためにトンネルを使う」というイスラエルの計画と、トルコの大量輸送プロジェクトを打ち破ってのものだった。

この計画は決して、冷たく暗い空間でコウモリのような生活を強いるものではない。新たにつくり出される不動産は、下水処理場や浄水場、データセンター、貯水池、貯蔵施設などに充てられる可能性が高い。

優先順位は低いものの、公文書館、石油・ガス・ワインの貯蔵庫、駐輪場や駐車場、研究所、スポーツ施設なども対象になりそうだ。霊廟、霊安室、火葬炉、火葬場、および死にまつわるテーマとして欠かせない屠殺場も包含しうる。「地下スペースを最大限に活用できれば、制約を好機に変えられると考えています」とホウは語る。

空間を拡張するためにトンネルを使うというのは新しいアイデアではない。エンジニアが参考にしている都市はいくつもある。ノルウェーは1975年、地下にユービック・オリンピック・マウンテンホールを建設。リレハンメルでの冬季オリンピック翌年の1995年に改装し、5,500人を収容できるプールとアイスホッケー場を備えた施設に生まれ変わった。

シンガポールは2008年、地下に弾薬庫を建設した。米カンザス州ではかつて、起業家が石灰石の採石場を地下の工業団地に変えた。現在はクラウドコンピューティング用のストレージ、梱包材製造、郵便物の仕分けに使用されている。

香港にもすでに岩盤を掘って建設した洞窟施設がいくつかある。香港大学の424,000立方フィート(約12,000立方メートル)の塩水貯水池や1995年に完成した下水処理場、爆発物貯蔵所などだ。2013年に改装された廃棄物移送施設は現在に至るまで、香港で最大の岩盤洞窟プロジェクトとなっている。

先行投資は巨額だが、維持費は不要

しかし現在、進行しているプロジェクトはさらに規模が大きい。地域の公共スペースを完全に再編しようという計画だ。香港計画局の主任都市計画員、エドワード・ローは「地下に施設を移転しようとする計画が、地域全体を再建する好機となります」と語る。駐車場やデータストレージといった機能を地下に移動することで(地上の)土地を住宅やビジネスに利用でき、うまくいけば価格を下げることができる。

大規模な計画は安くはない。香港政府は岩盤洞窟の掘削コストだけでも1立方フィート(0.03立方メートル)当たり190~250米ドル(約21,538~28,340円)と推定している。建設の総コストは1立方フィートあたり320~450米ドル(約36,275~51,012円)という試算もある。非常に小さな12台用の駐車場を1つつくるにも、建設費が730万米ドル(約8億2760万円)に上る可能性があるわけだ。

よいニュースとしては、すべての支払いが先行投資になることだ。「トンネルの最大の利点は、ライフサイクルコストを長い目で見ると本当に好都合だということです」と語るのは、民間企業のエンジニアであるトム・ネフだ。トンネル建設においてキャリアを積み、現在はコンサルティング会社OckhamKonsultを経営している。「岩のなかにつくってしまえば、もうすることはありません。永遠にそこにあるのです。ところが、ほかの建造物はつくったあとも維持しなければなりません」

香港のプロジェクトには、すでに何億米ドルもの予算が割り当てられている。すべて使い切るつもりであれば、その後には頑丈なよいインフラが残ってしかるべきだ。しかし、スケジュールはまだはっきりしていない。1カ所の汚水処理施設が設計段階に入っており、18年から19年初めには建設を開始する予定だ。

ほかの洞窟プロジェクトは、まだ調査中となっている。承認されれば、詳細の設計を経て建設に至るだろう。長期のプロジェクトで香港政府と協力しているエンジニアリング会社Arupのマーク・ウォレスは、期間について「おそらく10年にわたるプロセスになるでしょう」と語る。岩盤に穿たれた深い洞窟のなかに埋葬されたいと夢見ても、あと数年は待つ必要がありそうだ。