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【ビブリオエッセー】人種問題に投じた一石 「非色」有吉佐和子(河出文庫)

 米国では人種差別をめぐる事件が後を絶たない。昨年来、BLMという標語が世界に向けて根深い現実を訴え、私はこの小説を読み出した。若い頃に読んで衝撃を受け、再読したのが十数年前。今回で3度目になる。

 この小説には有吉佐和子が米国留学したときの経験が生かされているという。公民権運動が続く米社会をその目に焼きつけたのだろう。『非色』は戦後まもないアメリカの人種差別を赤裸々に描き出している。

 主人公の笑子は終戦の年に女学校を卒業すると母と妹の三人の暮らしを支えるため進駐軍のキャバレーでクロークとして働く。そこで知り合ったのが黒人兵トム。ほどなく結婚し、戦後の食糧難の時代、夢のような生活だったが長女メアリイが生まれて周囲の反応が一変する。

 やがて帰国命令が下り、除隊後はニューヨークの病院で働くトム。笑子は日本から出ることを決め、メアリイを連れて渡米した。いわゆる戦争花嫁だ。行く先は黒人たちの多いハアレムだった。その後、3人の子供が生まれ、生活は厳しい。小説では笑子が船中で知り合った3人の女性たちも夫の出自による人種差別に苦しむ姿が描かれている。

 メアリイは賢く強い少女に育ったが、突然やってきて寄宿を始めたトムの弟シモンの働きもしない姿を見て、こう言い放つ。「人間は勉強するか働くか社会の為に役に立つか」「シモンのような男がいるからニグロは馬鹿にされるのよ」と。笑子はそれが自分の心の声でもあったことに思いおよび、自らを恥じた。

 終盤、メアリイがいろいろな人種の混じった家族を誇りに思うと書いた作文には感激した。人は決して「色に非ず」という著者の訴えは、発刊から半世紀を越えた今も重く響く。

 大阪市淀川区 井口紀代子 77

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