PR

産経WEST 産経WEST

【ビブリオエッセー】本能で熱中したあの頃 「チーズはどこへ消えた?」スペンサー・ジョンソン著 門田美鈴訳(扶桑社)

 なにかに導かれるように、20年前に手にした本書を本棚の奥から引き抜いた。当時、世界中の企業が社員研修に使用したという謳い文句と表題のギャップに関心を持ち、手に取ったのを思い出す。

 この100ページにも満たない薄い本は、「チーズ」をめぐる2匹のネズミと2人の小人の物語が中心になる。いつもの場所から消えたチーズ。本能から新しいチーズを求めさっそく迷路を駆け回るネズミに対し、小人のヘムとホーはまず状況を嘆き、怒る。しかしホーは次第に考えを変える。ヘムは変化を恐れてその場を動けない。

 ページをめくるとチーズの挿絵とホーが得た教訓が簡潔な一文で表されている。「変わらなければ破滅することになる」「新しい方向に進めば新しいチーズがみつかる」…。シンプルな構成が年齢を問わず読者を飽きさせず、現在の自分と照らし合わせることができる。

 私の発見は記憶のよみがえりだった。子供の頃、友達とピカピカに輝く泥団子を作った思い出だ。試行錯誤を繰り返してできばえを競い、コツを教え合った。完成した泥団子をみんなで太陽に向けて掲げた。あの時の泥団子は私たちのチーズだった。疑いもせず熱中したのは単純な本能に違いないが、より輝く団子のため本能で動いた。私たちは幸せなネズミだった。

 40歳を超えたある日、光る泥団子を科学的に解説するテレビ番組を見たが、手品の種明かしに高揚感はなく、少し残念な気がした。

 今、世界中が忍耐を強いられ、新しい生き方が求められている。変異するウイルスには柔軟な対応が必要だろう。そして素早い行動や踏み出す勇気。要は「つねに新しいチーズがどこかにあるということ」。これを信じたい。

 奈良県橿原市 上田龍男 58

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~金曜日の夕刊1面に掲載しています。「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ