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【ビブリオエッセー】遠い記憶の「思い出の国」 「青い鳥」メーテルリンク著 堀口大學訳(新潮文庫)

 昭和16年から20年まで、私は国民学校(小学校)の1年生から5年生で、まるまる戦時中。瀬戸内海の島にあった伯父の家に疎開していた。あるとき、廊下の片隅に捨て置かれていた本箱を見つけた。

 分厚い本が並んでいて、その中に『小公子』や『小公女』『家なき子』などと表紙に書かれた児童向けの本があった。夢中で読みふけったのを覚えている。伯父は小学校教師で、戦意高揚一色の当時、外国の童話は子供の目にふれることを避けねばならなかったのだが、私の手にした本を見ても叱ることはなかった。

 あれから70年以上が経った。近頃はしきりに『青い鳥』を思い出す。あの本箱の一冊だったチルチル、ミチルの兄妹の物語。幸せの青い鳥を探し求めて旅に出た二人が最後に自分の家で青い鳥を見つける話だがイソップ式の教訓めいた結末ではなく、亡き祖父母に再会する場面があったはず。今、七十数年ぶりに読み返した。あいまいな記憶のふたを開けてみた。

 妖女の依頼で始まった冒険。光や水や火、パンや砂糖の精たちのセリフも今読むと実に印象的だ。めざす場面は第二幕第三場にあった。「思い出の国」である。

 そこにおじいさんとおばあさんが暮らしていた。元気そうだ。感激したおばあさんは二人にこう語る。「わたしたちのことを思い出してくれるだけでいいのだよ。そうすれば、いつでもわたしたちは目がさめて、お前たちに会うことができるのだよ」。そう、この言葉。

 私も85歳になり、人生の最終コーナーを曲がった。いつか「思い出してくれる」子や孫に、「凜として生きたおばあちゃん」と覚えておいてもらいたい。すぐ近くにいることを忘れないでほしい。私の青い鳥は思い出の国にいる。

 兵庫県川西市 浜田亘代 85

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