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【ビブリオエッセー】傷ついたあなたのための一杯 「スナックキズツキ」益田ミリ(マガジンハウス)

 都会の路地裏で営業する「スナックキズツキ」は傷ついた者しかたどりつけない。アルコールは置いていないが、ママの「今日もおつかれさん」の声とともに提供される「癒やしのドリンク」がそこにはある。

 あり得ない接客なのだ。コールセンターで働くナカタさんは電話の応対で傷つく日々。お客は「あなたお名前は?」「上司に代わってもらえますか?」と手厳しく、彼氏はいつもそっけない。寂しく帰宅の途中、目に入ったのがスナックキズツキだ。熱いソイラテのあと、ママが取り出したのがギターだった。生演奏が始まるのかと思いきや、「はいマイク」「好きにやっちゃって」「今のアンタの気持ちだよ」。

 客に合わせて変わる接客。ダンス好きにはタップダンスで一緒に地団駄を踏み、旅行好きにはストリートビューでエア旅行、亡くなった両親へ、天国の電話もある。言いたいことが言えない客には思いの丈をしりとりで。

 否定も励ましもしない絶妙なママのアシストで客は心の奥に溜め込んだストレスを吐き出し、心の積み荷をおろしていく。

 他人から見ればたいしたことでなくても人はふとしたことで傷つき、また自分では気づかないうちに他人を傷つけている。この漫画では、傷つけた人が次の章では傷ついている。第2話はナカタさんを電話で問いつめたアダチさんが主人公だ。本の帯にある「キズついて、キズつけて、生きてる。」という言葉。生きるってそういうことなんだと気づかせてくれる。

 もし近所にスナックキズツキがあれば下戸でコーヒー好きの私もきっと常連になるだろう。心の荷物をおろして少しでも他人に、自分に優しくなったら、もっと前向きになれるだろう。さて今日はどんな話を聞いてもらおうか。

 兵庫県川西市 木内美由紀 58

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~金曜日の夕刊1面に掲載しています。「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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