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【ビブリオエッセー】未来を知るために読む古典 「アメリカのデモクラシー」トクヴィル著 松本礼二訳(岩波文庫)

 現在のアメリカをトクヴィルならどう書くのだろう。あの怒涛のようなトランプさんの時代から、今のところほとんど波風のないバイデンさんだが、ふとアメリカのことが気になった。

 というのも今年の初めから読み始めたこの『アメリカのデモクラシー』がいつも手元にあったからだ。読みやすそうで実に手ごわい社会科学の古典。今から190年前、1831年に約9か月間、建国まもない新興国アメリカを視察したフランス貴族で政治思想家の著書だ。岩波文庫では全4冊の大長編である。

 革命で多くを失ったトクヴィルには広大な大地で暮らすアメリカ人がまぶしく映ったに違いない。当時はまだ24州だったが連邦政府との特異な関係にも注目し、すでに人民主権や自由、平等という民主主義の基本が根づいていることに、若い息吹を感じている。

 司法権や憲法の優位性などを鋭く分析しているが賛辞を並べているわけではない。虐げられている先住民や黒人について、いずれ起きるであろうことを憂い、「多数の暴政」などと民主主義に潜む危険性を指摘している。「私はデモクラシーを知りたかった」「何を期待すべきか、何を恐れるべきかを知るために」。

 またロシアとアメリカの二国が将来、世界の半分の運命を手中に収めるだろうと書いていて、さすがは「予言の書」。読み進むうちに難しい政治史というよりトクヴィル君の言説を楽しんでいた。まだ若い思想家の著作なのだ。

 社会の分断や貧富。これはアメリカだけではなくグローバル化で世界規模に広がっている。しかしトクヴィルは「アメリカ人の大きな特権は(中略)失敗を犯してもこれを正す自由がある点」という。やり直しがきく国なのだ。いつか一つに結ばれるアメリカの未来を信じたい。

 神戸市中央区 悠 68

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