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【ビブリオエッセー】すべての働く人たちへ 「ほたるいしマジカルランド」寺地はるな(ポプラ社)

 「自分を幸せにできるのは自分だけやもん」

 大阪北部にある遊園地「ほたるいしマジカルランド」で勤続42年の山田勝頼は3日後に定年を迎える。その妻、照代のこんな言葉にドキリとした。楽しげなメリーゴーラウンドの表紙に誘われて読み始めた小説の何気ないセリフに心が揺さぶられた。

 山田はマジカルランドで植物の管理、特に約六百種の薔薇の栽培を任されてきた。こう紹介すると「やりがいのある仕事をする薔薇のおじさん」に思えるが悩み多きシニアであり、部下の無断欠勤に心を痛めていた。照代も「薔薇といえばデパートの紙袋」しか思い浮かばない現実派で情趣に欠ける。冒頭の言葉は娘を連れて山田と再婚した照代が家族のこれまでを振り返り、「幸せ」について話す場面だ。お父さんに幸せにしてもらったわけではないと打ち明けた後、でも「ずーっと幸せでしたよ」と語る。幸せってそんなものだなと私も妙に納得した。

 この小説はマジカルランドを舞台に、そこで働くフツーの人たちの日常が描かれる連作。それは女性社長の突然の入院であたふたとする1週間だった。学生時代から役者志望で今はインフォメーションの仕事をつつがなくこなす萩原紗英、メリーゴーラウンドを担当したいと機会をうかがう村瀬草、人生の曲折を経て清掃スタッフとして働く篠塚八重子、社長の息子でイケメンの国村佐門も悩みは多い。そして山田の最後の出勤日がやってきた。

 私たちもこの1年で生活がすっかり変わった。気の抜けない日々、数字に一喜一憂し、悲しいニュースに胸を痛める。マスク着用もすっかり定着し、新しい日常に慣れてきた。そんな時だから「幸せ」を考える。自分だけ、は決意の表れ。その先に、みんなの幸せがある。

 東京都目黒区 はづき 40

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