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入学式を待たずに 今年の桜は駆け足で 鹿間孝一

 「どうして小学校の校門の脇には、申し合わせたように桜の樹があるのだろう。私は、あれがないと入学式が絵にならないからだと思っている」

 作家でテレビドラマ「時間ですよ」などの演出家としても知られた久世光彦(くぜ・てるひこ)さんは、コラムニストの山本夏彦さんとの共著「昭和恋々」(清流出版)でこう書いた。

 「新しいランドセルを背負った子たちが、母親に手を引かれて校門を入っていく姿の上には、かならずと言っていいくらい、桜の花びらが降りかかっている」

 久世さんは自身の入学式の記憶をたどりながら、「半世紀経っても、この日の光景だけは、それほど変わっていないだろう」と結ぶが、さて令和の時代になってどうなることか。

 わが家の近くの小学校は今日が入学式だが、校門の桜はとうに見頃を過ぎてしまった。開花が早すぎたのだ。大阪では3月19日に桜の開花が発表された。平年より9日早く、昭和28(1953)年に統計を開始して以来、最も早かった。

 40年以上も前に駆け出しの社会部記者として大阪管区気象台を担当した。その頃の桜の開花は3月末か4月初めだった。開花してほぼ1週間で満開になるから、入学式とタイミングが合う。ある年、花見を予定していたのに開花が大幅に遅れ、温めれば咲くだろうと公園の桜の下でたき火をしたグループがあった。火事騒ぎになって大目玉を食らったが、その気持ちはよくわかる。

 桜の開花は全国的に早くなっている。しかも、以前は高知や鹿児島など南国から桜前線がスタートして北上したものだが、このところは東京など都市部が早く、南下する傾向もみられる。

 桜の花芽は夏に作られ、いったん休眠して冬に一定期間、低温にさらされることによって目覚める(休眠打破)。そして春の暖かさによって開花に至る。冬の寒さこそが大事な要素なのだ。温暖化によって暖冬が続くと、休眠打破ができなくなり、開花が逆に遅くなったり、開花しても満開にならなかったりすることもあるという。

 「さくら咲いて、なるほど日本の春で」(山頭火)。春は日本全国が桜色に染まる。満開の豪奢(ごうしゃ)もいいが、ひらひらと舞う桜吹雪や水面に浮かぶ花筏(はないかだ)も美しい。

 「さまざまのこと思ひ出す桜かな」(芭蕉)

 桜が日本の気候のバロメーターであることも忘れずにおきたい。

 しかま・こういち 昭和26年生まれ。社会部遊軍記者が長く、社会部長、編集長、日本工業新聞社専務などを歴任。特別記者兼論説委員として8年7カ月にわたって大阪本社発行夕刊1面コラム「湊町365」(産経ニュースは「浪速風」で掲載)を執筆した。

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