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【ビブリオエッセー】その未来は希望か絶望か- 「第四間氷期」安部公房(新潮文庫)

 高校時代の教科書に載っていたのが安部公房の「赤い繭」だった。SF的作風に強く惹かれ、以後、『他人の顔』『砂の女』『燃えつきた地図』など読み漁ったが、作家が伝えたい核心の周囲を回っているようで隔靴掻痒のもどかしさを感じていた。その後、『第四間氷期』を読んだとき、ひらめくものがあった。

 この小説は、東西冷戦下でソ連がいち早く予言機械(コンピューター)を開発し、日本でも実験が始まった時代。中央計算技術研究所の勝見博士は地球の将来に危機を感じ、人間の未来を予測する予言機械を作る。最後の仕上げは自分の記憶や人格のすべてをその機械に注入し、第二の自分を作り上げることだった。

 ところが完成した予言機械は地球の水没を予測し、人間の意思を離れて独走を始めた。それは「生き延びるため」「未来の救済」という大義名分のもと、人類を水の中で生きられる「水棲人間」に改造する計画だった。胎児を闇のブローカーを通じて集め、水中で育てる養育場を見せられた勝見博士は動揺する。追いつめられ、第二の自分と向き合う。

 書かれたのは昭和30年代。機械文明や科学の発達の中で人間らしさが抹殺されていく社会への風刺であり、警告のように感じた。そして現在のAI社会化や生命工学、地球温暖化などを先取りした先見性に驚く。

 また、信じるべき家族さえ分断され、人間の中に潜む「壁」があぶり出される一部の殺伐とした現状にも思い至る。著者が作品の中で示したように、壁はよじ登るか回り道をするか穴をあけるか、絵を描いて時を過ごすものだ。

 著者は「この小説から希望を読みとるか、絶望を読みとるかは、むろん読者の自由である」と書いた。選択は私たちに委ねられている。

 大阪市阿倍野区 渡部純一 70

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