乳がん経験者がつくる下着 不安に寄り添う一助に

乳がん経験者の女性が自らの体験などを生かし、乳がん患者や経験者向けの下着の製作・販売会社を展開している。「下着屋Clove」(東京都中央区)社長、ボーマン三枝さん(39)=岡山県在住。右胸の摘出手術を受けてから退院後の生活で下着選びの不便さを実感したことで、自ら下着を作ろうと起業した。「顔をあわせて心配事を話してもらい、安心して買い物をしてほしい」。現在は産休中だが、今後、オンラインでの対面相談を行う予定だ。
「まさか私が」
ボーマンさんが乳がんと診断されたのは平成25年6月。当時31歳だった。同年3月、英国人の夫と結婚し、埼玉県に移住したばかりだった。右の胸にしこりを感じ出身地の岡山県の病院で検査をしていたが、がんは見つかっていなかった。「安心していたところで『まさか私が』という思いでした」
同年7月に手術で右胸を全摘出。その後の生活で直面したのが下着選びの問題だった。
近くのショッピングセンターで売られる下着には、がんで切除した部分を補うパット(詰め物)用のポケットはない。大手下着メーカーは予約制で乳がん経験者向け下着の試着サービスを行っているが、決して手軽ではない。いずれは岡山県に帰るつもりだったが、地方に住めばよりハードルは高くなってしまう。
気持ちがめいった。だが、「自分が困った経験を生かして人の役に立つことがしたい」との思いも募り、自ら下着を作ることを決意。28年5月に起業した。社名は、がん(cancer)の頭文字「C」と愛(love)を組み合わせた「Clove」。「がんになった自分も愛せるように」との願いを込めた。
ニーズをつかむ
生産拠点や技術もなくゼロからのスタート。アイデアを形にしてくれるメーカーや工場を電話をかけて探し、各種展示会にも足を運ぶ中、協力してくれる業者と出合った。
乳がん患者や経験者でつくる団体にも関わった。がんの進行を抑えるホルモン治療を受けている人が陥りやすい「ホットフラッシュ」と呼ばれる多汗やほてりに悩む声を聞き、さらに試着会を開くなどして細かいニーズをくみ上げていった。「以前介護業界で学んだ、相手の声に耳を傾ける『傾聴』に通じるものがあった」と振り返る。