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【ビブリオエッセー】生と死がこんなにも愛しく 「猫鳴り」沼田まほかる(双葉文庫)

 沼田まほかるさんという作家を存じ上げなかった私はまずその略歴に目を見張った。「主婦、僧侶、会社経営」とあり、これは一体?!主婦としての経験をもち、人生を達観する仏道を知り、ビジネスにも精通している-。私の第一印象は正体不明で謎の作家。そんなまほかるさんが描く『猫鳴り』はよくある猫と人間の心温まる情愛の物語などではない。全三章の最初の章から非常にシビアな設定だった。

 流産して間もない信枝は自宅に捨てられていた仔猫を疎み、肩のあたりの傷口を処置し、餌をやりながらも「生き物は好きじゃないから」と夫の藤治に捨てに行かせる。第二章では父子家庭の鬱屈に不登校となっている男子中学生が幼児に対して残虐な妄想を膨らませ、痛めつけたいという異常な心理状態に至る。

 物語は比類なきまでに嫌悪感を読者にもたせ、何度も読み続けることを放棄しようと考えた。第三章を読むまでは…。

 実は第一章で仔猫は「モン」と名づけられ、信枝と藤治に飼われることになる。猫を捨てたと打ち明ける不思議な少女が現れ、なかば押しつけられるように。第二章ではこの少女やモンの存在が中学生を変えていく。第三章は信枝に先立たれた藤治とモンとの15年後、20年後が淡々と描かれる。

 老いたもの同士、できなくなることが増えていく以外は変化のない毎日が続く。若いころは縄張りを支配していたモンも命の掟には逆らえない。人の世も猫の世も同じなのだ。

 まほかるさんは、小さくて脆くて弱い猫が、人間なんかより堂々と生を全うし、死んでいく姿を描く。そこに凜とした美しさがあった。

 巻末、命の灯が尽きようとしているモンを見て、若い獣医は「自然に」と語った。人生終焉のキーワードだ。最期の静けさに涙が溢れた。

 埼玉県川口市 shu shu 45

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