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【ビブリオエッセー】枕元の親友。絶品の語り口 「東京日記1+2 卵一個ぶんのお祝い。/ほかに踊りを知らない。」川上弘美(集英社文庫)

 友達ができた。この年にして。しかも親友が。コロナ禍で外出もままならない中、「彼女」と語り合う就寝前のひとときに救われる。早く目覚めた日はわずかな時間でも、布団の端っこにあるこの本へ手が伸びる。

 川上弘美さんの『東京日記1+2』にはまっている。手元にあるのは、著者が折に触れ日常を綴った日記の1冊目と2冊目の合本。続編も気になるが、これが今の親友の名前だ。

 視点が独特である。例えば花粉症の目のかゆさをこう表現する。「ノミくらいの大きさの小人が目玉の表面に何百人も並んで、とんとん行進してゆくような感じのかゆさである。小人たちの靴の底は、ちょっとけばだったフェルトだ。(中略)フェルトではこれはもう、微妙にかゆくてかゆくて、いかんともしがたい」。

 古今東西、花粉症の辛さをこれほどぴったり表現した人は見当たらないのではないか。

 相手との間柄や距離感が難しい「尾籠な話なんですけど」という前置きの言葉を使いたくてずっと機会をうかがっている話や、壊れた電話を捨てる前に東京音頭を踊ってあげる話など、こちらの予想をみごとに裏切る語り口。その肩透かしが何度読んでも心地よい。

 著者の本を読むのはこれが6冊目だ。『センセイの鞄』に始まり、芥川賞を受賞した『蛇を踏む』などたてつづけに読み、川上ワールドにのめりこんだ。しかしこれほど親しみを感じたのは『東京日記』が初めてだ。

 不安と緊張の夜も彼女の少しずれたテンポに接すると、ふうっと呼吸が深くなる。ささくれだった心がまるくなる。今夜も枕元の彼女と過ごそう。「その話、本当!?」「5分の4ぐらいは本当だってば」とじゃれあいながら。

 兵庫県西宮市 今井りーざ 53

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

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