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【ビブリオエッセー】農民たちの生き方に励まされる 「水神」帚木蓬生(新潮文庫)

 疲れている時、落ち込んだ時に『水神』を読みます。もう何回読んだことか。どうして、この時代小説に手を伸ばすのかなと考えました。で、わかりました。この本の登場人物たちは皆まっとうな人たちなのです。

 時代は17世紀の江戸時代前期。九州・筑紫平野を流れる筑後川の堰渠工事をめぐる実話をもとにした小説です。満々と水をたたえて流れる大河があるのにその恩恵にあずかることができない貧しい村々。心ある庄屋たちが凶作に悩む乾いた農地に水を引くため、大河に堰を築き、灌漑用の水路を掘削する大工事を志します。

 関係する村は多数に及び、当初は反対する人たちもいました。しかし中心となる5人の庄屋たちは身代をつぶすつもりで、失敗したら打ち首、磔の刑も覚悟で嘆願します。ようやく工事の許可は出ましたが、当然のように重い年貢を取り立てる藩からお金は出ません。

 でも、応援する人たちも次々に出てきます。庄屋たちから3割の利子を取るのは商人の恥だと言い切った両替商。古道具をできる限り高く引き取ろうとする古道具屋の主人。農民たちの仲立ちに命を懸けた藩士の下奉行…。

 工事には各村から農民たちが駆り出されました。事故も起こります。でも、人々はめげません。大きな石を運ぶことになった時、通過する村々の人々はお祭りのように楽しみながら大石を次々に押します。水が来たら川辺は緑に潤い、未来への夢は広がります。川と水はみんなの希望なのです。

 この小説は島原の乱で父を失った元助の成長物語でもあります。人々は貧しいなかでも日々を大切に、農民としての矜持を失わず、共に生きています。そして自らが必要とされた時には必要なことをやり遂げる。こうしたまっとうな人々に励まされ、元気をもらっています。

 東京都目黒区 下田茜 43

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

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