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【ビブリオエッセー】素直に読めた「父の詫び状」 「向田邦子ベスト・エッセイ」向田和子編(ちくま文庫)

 最近、CDのベスト盤のように、著者のエッセイから選ばれ、再編集された50編の名文が本になった。昔からの向田ファンである私には以前読んだことのある文章も数々あるが、著者と面識もないのに妙に共感でき、姉御肌の彼女に甘えられそうな心地よさがある。

 たとえば「手袋をさがす」という一文の、「手頃な手袋で我慢」しないところ、「清貧」や「謙遜」という言葉が嫌いと書くやせがまんも魅力だ。食いしんぼうを自認する著者のレシピをまねたことも多々ある。

 ただ、最初の一文「父の詫び状」だけはこれまでどうもしっくりこなかった。保険会社の社員だった酒飲みで頑固で、仕事第一で家族のことは二の次、時に暴君的な父親。そんな父が著者にあてた、短いねぎらいのひとことで締めくくられているのだが、十分に客観的でありながらなお愛情をもった語り口に、今までどうしても共感できなかった。

 それが今回、数年ぶりに読み返してみると心にスッと入ってきたのだ。これまでは、同じような父親を持った自分が最後まで父を受け入れることができなかったのに対し、著者がそんな父親でも愛情を持って軽やかに受けとめていることに嫉妬し、自分の心の狭さを実感させられ、いらだっていたのかもしれない。

 自分が年老いたからだろうか。私の父は早く亡くなったのだが、記憶の中で自分が愛された場面をゆっくり探してみて、著者と同じように父を受けとめてみたいと思った。

 本は読み手の経験や年齢によって随分印象が変わるものだと改めて思った。同じ本を時を経て読み返してみる。そこに新たな発見があり、心の成長が感じられるのも悪くない。

 堺市南区 堀江美和子 65

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