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【ビブリオエッセー】輝いた青春時代がよみがえる 「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦(角川文庫)

 大学3年の6月、幾分肌寒さを感じた夜のこと。写真部の新入生歓迎会の帰り道だった。かなり酔っていたが立ち寄った書店で見た文庫本の表紙に可憐な少女が描かれていて、たちまち心惹かれ、手に取った。そのあとも千鳥足で、ようやく家にたどり着くと、風呂にも入らず寝床でさっそく読み始めた。

 京都の学生街を舞台にしたラブコメディーである。お酒に強い天真爛漫な女子大生「黒髪の乙女」と、そんな乙女に恋したさえない男子大学生で乙女と同じクラブの「先輩」が、交互に「私」となって物語を語っていく。

 先輩の結婚披露宴の帰り道、まだ飲み足りない乙女が木屋町から先斗町界隈を威風堂々と飲み歩き、先輩の「私」は彼女の後を追いかけるという設定で物語は始まる。「夜は短し歩けよ乙女」から「魔風邪恋風邪」まで全4章。天狗を自称する樋口や金持ちの李白老人、錦鯉センターの東堂さんなど奇天烈な登場人物がからみ、偽電気ブランやおともだちパンチなど独特な言葉が飛び交う、森見ワールド全開の1冊。

 まず1章を読んだ私は当時の自分の状況に酷似した物語に眠気も酔いもどこへやら。森見先生の世界に吸い込まれ、人生で初めて「ずっとずっと読んでいたい」と思う本に巡り合った。読み始めたのが6月で読み終えたのは同じ年の12月。読み終えるのが惜しくて半年がかりの読書だった。読み込みすぎてページは茶色く変色し、所々が折れているがそれも味わいだろう。

 タイトルは「ゴンドラの唄」の冒頭「いのち短し恋せよ乙女」から名づけられた。皆さんもぜひ、この本を読むときは楽しい酒席の後、輝いた青春時代を思い出しながら読んでいただきたい。私にとっては中村佑介さんの描くイラストの少女とともに、不滅の青春小説だ。

 大阪府高石市 森島勇介 26

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 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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