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【ビブリオエッセー】これなら苦手な数学も 「算私語録」安野光雅(朝日新聞社)

 得意なものなど何もないが不得手は数々あって、とりわけ理数系がダメだ。小学3年生の時、両手指を使って計算する自分がほとほと嫌になった。同じ頃、「3つ以上はたくさん」と考える民族がいると知り、見たこともない遠い国の人たちを近しく感じた。

 そんな私には一生無縁な『数学セミナー』という雑誌にかつて連載されたコラムをまとめたのが本書である。読んでみたのは著者が安野光雅氏だからで、安野氏の絵はもちろんエッセーも大好きだ。しかし、難問に「エレガントな解答」を求めてくる雑誌だけに油断はできない。が、安野氏は数学という壁を取り払い、広々とした空間を用意してくれていた。

 書名と同じ345編の知的な短いおしゃべり(私語)がつまっている。立体の展開図や数式の話もあるが数学とは関係のない言葉遊びなど身近な話の方が多く、ほっとする。

 1日は24時間、ドレミファは7段階で十進法でないのが気に入らないらしい。百足の足の数や「帯に短し、たすきに長し」とは何メートルのことなのか気になったり、「確からしさ」という数学教育用語が「落ちこぼれ」と同じくらい嫌な言葉だと書いている。

 特に「衆人環視の中をビリで走った」で始まる一節が印象的だ。「私は卑屈な笑いを浮かべてビリを走った」。後に教師となった安野氏はビリをなくすべく考えたが駄目だった。

 「そして満座の中で恥をかくことは、マイナスばかりではない」と思い至る。この一文に共感し、子供たちの気持ちを飲み込んだ方が教師であってほしいと願う。

 理系文系の枠を越え、数学的思考の深い淵を少しのぞいたような気にしてくれた。さすがは安野氏、おしゃべりも心に染みる。

 岐阜市 山田佳美 49

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