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柿の葉寿司 「陰翳礼讃」でも絶賛、海の幸と山の香が織りなす吉野の奇跡

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 ほどよく脂の乗ったサバやサケの寿司(すし)を、野趣に富んだ柿の葉が包み込む。奈良県の名物として知られる「柿の葉寿司」は、熊野灘から吉野地方に運ばれた塩漬けサバの寿司が奈良の名産である柿の葉にくるまれて誕生した風土の味だ。うまみの強いサバ寿司と香ばしい柿の葉は相性抜群だが、“なれそめ”の真相は謎のベールに包まれている。  (川西健士郎)

紀伊半島にも鯖街道

 柿の葉寿司のルーツを知るには、柿の葉寿司の老舗3社の歴史がヒントになる。

 大正10(1921)年、奈良県上北山村で創業した「柿の葉寿司のゐざさ 中谷本舗」はもともと米屋だった。上北山は熊野と吉野を結ぶ東熊野街道の中心。創業者の妻が同じ街道筋の同県川上村出身で、実母譲りの柿の葉寿司を作って販売したのが始まりだ。

 東熊野街道は、熊野灘で水揚げされ、浜塩を施したサバを運ぶ行商人が往来。同社商品部次長の中谷圭佑さんは「『鯖(さば)街道』といえば福井県の若狭地方と京都を結ぶルートが有名ですが、紀伊半島を縦断する街道も同様の働きをしていました」と説明する。

紅葉の柿の葉も使った秋の柿の葉寿司=奈良県天理市の「平宗」本社工場
紅葉の柿の葉も使った秋の柿の葉寿司=奈良県天理市の「平宗」本社工場
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 運ばれる間にほどよく塩がなじんだサバを薄くそぎ、握ったご飯を抱かせて発酵させると「生なれずし」ができる。これを渋柿の葉でくるみ、四角い寿司桶に隙間なく入れて重しを置き、熟成させたのが柿の葉寿司のルーツとなっている。

 「柿の葉はポリフェノールが豊富で抗菌作用があり、保存期間を伸ばす効果がある」と、奈良県農業研究開発センターの浜崎貞弘さん。「ただ、柿の葉で包む発想がいつ生まれたのかは分かりません」

林業の職人が包んだ?

 「柿の葉すし本舗 たなか」は、日本一の柿産地の奈良県五條市が本店。国鉄五条駅前で食堂を営んでいた明治時代後期に、夏のメニューとして柿の葉寿司を提供したのがはじまりだ。

 本店は江戸時代の町並みが残る商家町、五條新町にあり、町の庄屋であった柏田家住宅には文化七(1810)年の銘が入った柿の葉寿司のすしおけが残っている。紀の川(吉野川)や十津川街道が交わる要衝の地で、江戸後期にはすでに食されていたことが分かる。

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 老舗3社で最も歴史が古いのは「総本家 平宗」。大和国上市村(現在の奈良県吉野町)の吉野川沿いで、江戸末期の文久元(1861)年、寿司や乾物の製造販売を始めた。明治に入ると「料理旅館平宗」を開業。当時、吉野名物といえば鮎ずし。アユ料理のサイドメニューとして、柿の葉寿司を振る舞ったという。

 旅館は、江戸期から隆盛を誇った吉野林業の集積地にあり、森林を管理する山守の定宿だった。平井孝典社長は「おにぎりをラップで包むように、山守さんがサバ寿司を柿の葉で包み、夏のお弁当にしたのでは」と原風景を想像する。

谷崎潤一郎も称賛

 《今年の夏はこればかり食べて暮らした。それにつけてもこんな鹽鮭(しおざけ)の食べかたもあつたのかと、物資に乏しい山家の人の發明に感心した…》

 昭和初期に吉野山に逗留(とうりゅう)した小説家の谷崎潤一郎は、随筆「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」にそう記した。食通でもあった谷崎をうならせたのは、平宗がいち早く始めたというサケの柿の葉寿司。

 ≪鮭の脂と鹽氣とがいゝ鹽梅(あんばい)に飯に滲(し)み込んで、鮭は却って生身のやうに柔らかくなつてゐる工合が何とも云えない≫

 また、平宗は昭和37年、大阪市の天王寺ステーションビルに専門店を出店。翌年には大阪阿部野橋と吉野を結ぶ近鉄特急の車内で販売を始め、柿の葉寿司の存在を奈良の外に広めていった。59年にはたなかが通信販売を開始。「家に届く頃がちょうど食べ頃の『贈れるお寿司』として全国に広まっていきました」と広報担当の西井理貴(まさき)さん。全国の名物駅弁が並ぶ東京駅にも柿の葉寿司は人気を博している。

柿の葉に包まれながら握られる「たつみ」の柿の葉寿司=奈良県吉野町
柿の葉に包まれながら握られる「たつみ」の柿の葉寿司=奈良県吉野町
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 「ファストフードのような手軽さと、丁寧に包むという和の精神が感じられるところが、時代に左右されずに愛されてきた理由でしょう」

 包まれるネタもウナギやサンマなど彩り豊かに進化する柿の葉寿司。葉をめくる楽しさも増え続けていく。

 世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する吉野山。観光客でにぎわう桜や紅葉のシーズンは多くの店で柿の葉寿司が販売されるが、年間を通じて購入できる柿の葉寿司店も5店舗あり、昔ながらの味を楽しむことができる。

 吉野山観光協会によると、近年は食べ比べを楽しむ観光客も目立つようになり、少量やバラ売りに対応する店舗も。東利明会長は「作り方やこだわりが店ごとにけっこう違うので、味の違いを楽しんでみては」とすすめている。

 「柿の葉すし たつみ」の店先では、柿の葉の中心に置いたサバやサケに酢飯を載せ、包み込みながら握っていく熟練の手技が目を引いた。店主の龍見貢さんは「海の幸、ご飯、山の香りが融合することで、まろやかで香ばしい自然の風味が引き出される」と手作りの味をアピールしていた。

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