PR

産経WEST 産経WEST

【ビブリオエッセー】人生の光と影、そして永遠の友 「影法師」百田尚樹(講談社文庫)

 朝の通勤で、地下鉄梅田駅下車のはずが二駅も乗り越し、驚いた。そのとき私は、好きな時代小説『影法師』を車中で読み返していて、主人公、勘一らが少年時代、川で溺れるシーンに夢中だった。

 大失敗談を妻にラインすると、妻もトイレで手もとがくるい、芳香剤の小瓶を流して便器と格闘中との返信。川と厠での「水難事故」の因果にお互い失笑した。

 小説に戻る。勘一は下級武士の家に生まれたが藩政を豊かにする干拓事業に大志を抱く。もうひとり、勘一の竹馬の友、彦四郎は身分と文武の才に恵まれ、誰からも将来を嘱望されていた。互いを認め、信頼し合い、「刎頸の契り」を交わした二人。だが、藩主がら下命を受けた上意討ちを境に、明暗を分ける。

 勘一はその後、努力を重ねて事業を実現し、下級武士から筆頭国家老にまで出世する。一方の彦四郎は勘一の大願成就を影になって支えるが、自らは身を持ち崩して脱藩、そして病死…なぜ友のためにこれほどまで。この展開は何度読んでも胸が熱くなる。

 自らを省みると、これほどの親友も志もないまま五十代半ば。及ばずながら置かれた場所で全力を尽くし、悔いのない人生を全うしたいという思いに至っている。

 『影法師』の映画化を切望する。小柄ながら屈強な勘一と痩身でイケメンの彦四郎。そして彦四郎を慕いつつ勘一に嫁ぐみね、キャストを想像するだけでわくわくする。

 人生の明暗は表裏一体。明るい光に突き進む時には見えない後方で、支え護ってくれる影法師の存在があることを忘れてはならない。私も家族や仲間にとってのよき影法師になっているだろうか。自問しながら地下鉄に揺られた。

 堺市南区 日下部功 54

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ