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【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一】(90)試合前の異変 「辞意」伝えていた指揮官

ベンチ前で巨人の胴上げを見る山田(右)。左端は西本監督=後楽園球場
ベンチ前で巨人の胴上げを見る山田(右)。左端は西本監督=後楽園球場

 1勝3敗-「王手」をかけられた阪急に、もう巨人をはね返す気力は残っていなかった。

 当時、担当記者だった大先輩の西田二郎は〝小さな異変〟に気づいていた。西本幸雄監督は試合前、あまり記者と話さない。グラウンドに出てくるとそのまま打撃ケージの後ろに立つ。ところがこの日は、ベンチでずっと記者たちと談笑。「これから決戦に臨む監督とは思えないほど、優しい顔になっていた」という。

◇第5戦 10月17日 後楽園球場

阪急 000 001 000=1

巨人 002 040 00×=6

【勝】高橋一1勝 【敗】米田1勝1敗

【本】長池①(高橋一)

 試合は巨人の一方的な展開となった。三回、阪急の先発・米田から長嶋の左犠飛などで2点を先制。五回には2番手の足立を攻め、先頭の柴田が右中間三塁打。黒江が左前タイムリーを放つとすかさず二盗。王が敬遠の四球で歩いた1死一、二塁で末次が一塁左を抜く右前タイムリー。さらに上田の三塁後方の打球がポトリと落ちて決定的な4点を奪った。

 「V7」達成。川上哲治監督の大きな体がまた宙を舞った。阪急にとって「ことしは絶好のチャンス」といわれたシリーズ。だが、終わってみれば1勝4敗の惨敗。勇者たちは敵将の胴上げをベンチ前で見た。

 敗戦の会見、西本監督はズボンのポケットからたばこを取り出して火をつけると、フーッと白い煙を吐き出した。

 「負け惜しみを言うのやないが、巨人の力は間違いなく落ちている。投げたり打ったりでは差はなかった。その他の点でウチにつけ込まれるスキがあった」

 <阪急は巨人に勝てないのだろうか>

 「力が同じではダメだ。投打のほかに細かい点も整備し、巨人に勝る実力をつけないことには勝てない。今までの姿勢にさらに真剣味を加え前進していきたい。これから来季に向かってスタートだ」

 西本監督はこう言って会見を締めくくった。来季への意欲-。それは事実ではなかった。実は、この第5戦の試合開始直前、選手、コーチ、全スタッフをロッカールームから出し、森薫オーナー、渓間秀典代表、西本監督の3者会談が行われた。このとき、西本監督は「辞意」を伝えていたのである。       (敬称略)

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