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【ビブリオエッセー】戦の現場を語った女性たち 「雑兵物語・おあむ物語 附おきく物語」中村通夫、湯沢幸吉郎校訂(岩波文庫)

 岩波文庫の数ある古典の中で印象に残った一冊だ。二人の国語学者による編集で三編が収録されている。「雑兵物語」は足軽など三十人が語る戦陣訓。注目したいのはあとの二編で、『平家物語』や『太平記』など軍記物を好んで読んできた私にとって見逃せない記録だ。

 「おあむ物語」は関ヶ原の戦いの際に西軍の大垣城に家族とともに籠城した少女が後年、その体験を子供たちに語ったもの。おあむは「おあん(お庵)」とも書き、出家した老尼のことで、父が石田三成方の武将だった。

 記述は生々しい。城には敵方の生首が次々に運び込まれた。運んできた兵らは生首にお歯黒を施すよう頼んでいる。身分の高い武将を討ち取ったように見せかけるためだ。

 落城が迫る中、お庵の弟が鉄砲で撃たれて即死する。そして、お庵一家は城を離れることを決意し、たらいを舟にして堀を渡り、城を脱出した。逃げる途中、お庵の身重の母は産気づき、女児を出産し、田の水を産湯に使った。

 「おきく物語」は淀殿の侍女だったお菊が大坂夏の陣の、落城の日について語った一編。城内の侍女らにも流れ弾が当たり、火の手が上がった。お菊は訪ねてきた東福寺の月心和尚に、「死んだら弔ってほしい」と頼む。

 敗色が濃厚になり、お菊らは制止するのも聞かず城から逃げ出す。下帯は三つ着け、帷子は三枚重ね着して兵がうろつく街へ。そして人目を忍んで旧知の人々のもとに身を寄せた。

 お庵やお菊はなぜ自らの体験を語ったのか。「悲惨な戦乱の世に二度となってほしくない」と強く願ったからだろう。太平洋戦争の語り部たちにお庵やお菊の姿が重なる。祖父から戦場の話を聞いた者として、軍記物を読む時も作者や編者の思いを考えずにはいられない。

 京都市上京区 川上奈美 43

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