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和歌山・那智の扇祭り 大幅縮小も、本質は形を変えて…

今年は祭りが規模を縮小して営まれ、那智の滝前で、2本の小たいまつを手にした氏子ら=14日、和歌山県那智勝浦町
今年は祭りが規模を縮小して営まれ、那智の滝前で、2本の小たいまつを手にした氏子ら=14日、和歌山県那智勝浦町
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 世界遺産・熊野那智大社(和歌山県那智勝浦町)で毎年7月に営まれる例大祭「那智の扇祭り(火祭)」も、今年は規模を大幅に縮小した。落差133メートルの「那智の滝」前で大たいまつが炎の乱舞を繰り広げる勇壮な「御火(おひ)行事」も中止に。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、祭りを守り伝えてきた神職や氏子にとって苦渋の選択となったが、神事は形を変えて執り行われ、「神々の里帰り」という祭りの本質は維持された。関係者は、コロナ禍を乗り越えて伝統を未来につなぐ思いを新たにしている。  (張英壽)

示された6案 苦渋の判断

 那智の扇祭りは、熊野那智大社に祭られている神々が年に1度、扇神輿(みこし)と呼ばれる縦長の神輿に乗って那智の滝前に里帰りするという神事。ハイライトの御火行事には、神々を火で迎え、参道を清める意味があり、白装束姿になった約60人の氏子が約50キロもある大たいまつをかつぎ、「ハリャ」「ハリャ」と威勢の良い掛け声で練り歩く。通称「火祭」とも呼ばれる。

 「例年通りの斎行は難しいと判断されます」

 祭りの保存会役員会が5月10日に開いた会合で配布された文書には、こうはっきりと記されていた。

 御火行事や扇神輿を含む「渡御(とぎょ)」、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録された奉納行事の「那智の田楽(でんがく)」、小学生による稚児舞の「大和舞」。祭りを形作るこれら3つの行事が、いずれも新型コロナの感染リスクが高まる「3密」(密閉・密集・密接)に該当する恐れがあったからだ。

 大社側はこのとき、今年の祭りの方針について6つの案を示していた。それは、これら3つすべてを例年通り行う▽すべて行わない▽渡御のみ行う▽田楽、大和舞のみを行う▽田楽、大和舞を行うとともに、渡御は形を変えて行う▽田楽、大和舞を中止するが、渡御は形を変えて行う-というものだった。

歓声が消えた祭り

 出席者は大社側3人、氏子側7人で、話し合いの結果、最後の案で合意した。神事は途絶えさせてはならない。渡御は御火行事と扇神輿をやめる代わりに、紙垂(しで)をつけた榊を辛櫃(からひつ)に納めて那智の滝前に運び、小たいまつ2本で対応することが決まった。

 「やむを得ない」。出席した役員からは異論は出なかったという。役員会が開かれた5月上旬は、7月に開かれる祭りの方針を判断するにはぎりぎりの時期だった。

 伊藤士騎(しき)禰宜(ねぎ)(57)は「伝統ある祭りを一部中止していいのかどうか悩み、葛藤した」と語る。3月頃から男成(おとこなり)洋三宮司と話し合い、6つの案を出したという。「祭りはそのまま行いたかったが、もし何かが起きたら大変なことになる。苦渋の選択だったが、やむを得なかった。ただ祭り自体を行わないということは、考えたことがない」と振り返る。

 そして迎えた7月14日の本番。日本列島に停滞する梅雨前線の影響で、時折激しい雨が降りしきる中、縮小された祭りが行われた。

 例年約160人に及ぶ参加者は約20人に縮小し、大社での神事の後、氏子らが細長い小たいまつ2本を持ち、石段を下って那智の滝前へ。後から運ばれた辛櫃がたいまつの炎と滝のしぶきで清められた。例年は午前10時から約6時間続く祭りが、今年は午前9時前から正午前まで3時間ほどで終わった。

 また、人が密集するのを避けるため、那智の滝前の飛瀧(ひろう)神社の参拝を一時停止したため、例年5千~1万人にもなる見物客はほとんどおらず、歓声は聞かれなかった。

未来に伝える

 伊藤禰宜は「御火行事を中止したのは、知る限り初めてだが、神々が故郷にお戻りになる一連の行事は形を変えて行われた。祭りの本質は変わっていない」と話す。そのうえで「今回のことが経験となり、何かが起きても、祭りは続けられるだろう」と前向きに受け止めている。

 かつて二十数年にわたり大たいまつをかついだ氏子で、大社近くで土産物店を経営する小川一義さん(67)は「『ハリャ』『ハリャ』の掛け声も聞こえず、『炎の乱舞』もなく、寂しい思い」と打ち明けたが、「みんなの健康が一番。無事終わってほっとしている」と安堵(あんど)した。ただ、担ぎ手は、地元でも少子高齢化の影響でなり手を確保するのが難しくなっている。コロナ後も見据えながら「大たいまつは伝えていかないといけない」と強調した。

 小学4年の長男が中止になった大和舞に参加しようとしていた那智勝浦町のパート勤務、貝岐千裕(かいはみちひろ)さん(39)も「祭りでの息子の姿を楽しみにしていたので残念。大和舞はこの地域に住む子供が受け継いでいくもの。来年はぜひ参加させたい」と話した。

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