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【ビブリオエッセー】平凡にして珠玉の人生 「ストーナー」ジョン・ウィリアムズ著 東江一紀訳(作品社)

 この小説を米紙の書評で知った。その書評家が「読み始めてから一度も椅子から立たず最後までむさぼり読んだ」と絶賛しているのを読み、興味を持ったのである。あとがきによると訳者は生前、こう語っていたという。この物語は「平凡な男の平凡な日常を淡々と綴った地味な小説」であると。いかにもつまらなさそうだが、こう続けている。「そこがなんとも言えずいいんです」。私もまた、至福の読書体験をすることになった。

 確かに物語は、ウィリアム・ストーナーという、米国中西部の地方大学で長く教職にあった英文学の助教授の一生を綴っただけのものだ。著書もあるが、そのうち間違いなくそんな学者がいたことは誰も思い出さないだろう、という風に描かれている。

 しかし私はストーナーに感情移入し、彼とともに、両親と暮らした農場での少年時代、英文学との出会い、情熱的な恋愛と結婚、二度の大戦、結婚生活の破綻、女性講師との不倫と清算、学内での同僚や上司とのあつれき、そして自主退官への圧力や、最後の見事な死にいたるまでを追体験した。

 その人生は平凡で、あまり成功したとはいえないかもしれない。だが本人にとって文字通り全うされた人生であること、それが自分の価値観を基準に妥協と非妥協の絶妙なバランスによって達成されたことを知るのである。

 この小説は1965年に刊行されて以来、ほぼ忘れられた作品だった。ところが2006年の復刊で評価が高まり、各国でベストセラーになる。世界を共感させたものは何か。私にとっては、人生をこんな風に全うできたらいいなと思わせてくれた一冊だった。

 兵庫県宝塚市、三宅史朗  58

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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