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路面電車の生き残り 「再生の好例」阪堺の支え方

府内唯一の路面電車「阪堺電車」。従来型車両は鉄道ファンにも人気だ=堺市堺区
府内唯一の路面電車「阪堺電車」。従来型車両は鉄道ファンにも人気だ=堺市堺区
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 大阪市と堺市を結ぶ大阪府内唯一の路面電車、阪堺電気軌道(阪堺電車)を支えてきた堺市の財政支援が今年9月終了する。10年間で計約50億円の支援を行って乗客数を増やしたほか、支援をきっかけに地元住民による沿線活性化の取り組みも生まれるなどして、一定の成果を得た。一見、支援の終わりは路線存続を危うくする懸念材料にすぎない。しかし、これまで10年間で築き上げた市と阪堺、市民の連携を今後に生かすことができれば、新しい地域の路面電車像を示せる可能性を秘めている。  (小川恵理子)

なくてはならない路線

 「廃線の話もあったけど高齢者は100円だし、遠出するにもなくてはならない」。銀行やスーパーマーケットが立ち並ぶ阪堺電車の大小路停留所で、買い物に出かけるのに利用していた同市西区の主婦(66)はこう話した。

 明治時代に開通した2路線全長約18キロの阪堺だが、平成19年度の堺市内の利用客は年間117万人と、高度経済成長期の約1割程度まで落ち込み、同市内の区間については廃線も検討された。

 そこで、市側は平成22年度から10年計画で財政支援を行うことを決めた。大阪から堺の全区間を利用した場合の運賃を290円から200円(平成27年からは210円)に値下げしたほか、65歳以上が全線1回100円で乗車できる。

 支援開始から5年たった26年度の日平均乗降客数は2万2208人と5年で2千人以上増えた。当時、大阪産業大学教授だった塚本直幸氏らが行った利用者調査でも利便性が向上したと思う理由について「運賃が安くなった」という回答(複数回答可)が39・2%にのぼった。塚本氏らは「適切な公的支援が路面電車の再生をもたらした良い例」と結論づけた。

市と阪堺と市民が協力

 「市と電鉄会社、そして市民の三者が協力して路線を残そうとする動きは他都市にとっても注目度の高いものだった。全国的にも発信していくべき事例」

 有識者や公募の市民が阪堺電車の未来を語り合う「堺市阪堺線活性化推進懇話会」の座長を務める京都府立大学の川勝健志教授(公共政策)もこう指摘して、市の10年間の支援に一定の成果を見る。

 実際、地域の足としての存在感を取り戻した阪堺電車の30年度の阪堺線の1日平均乗降客数は2万2465人で、過去最低だった21年度から約13%増加した。

 さらに、市や阪堺の関係者を喜ばせたのは、住民の間に、路線を活用しようとする自然発生的な取り組みが生まれたことだ。26年には、沿線の商店主らで作るNPOが中心となって、地元の食材などを紹介するイベントも開かれた。

 一方、市は設備投資には約30億円を充てた。「古い車両は段差もあり乗り降りしにくい」という利用者の要望で、「堺トラム」の愛称で親しまれる低床式の新型車両を3編成導入した。

 27年には、同電車内で最も駅間が長かった同市西区の東湊-石津(約1・3キロ)のほぼ中央に停留所を新設した。阪堺の担当者が「どの区間でも『ちょい乗り』しやすい」と話す通り、路面電車の魅力の一つに駅間距離が短いことがあり、利便性を高めている。

観光客誘致が課題

 この秋に支援は終了し、これまで210円だった運賃は230円に値上がりすることが決まった。「目的地によっては(近くを走る)南海(電鉄)を使う方が早く着けて、阪堺と運賃の差もない、ということが起きるのでは」と利用者の堺市堺区の会社員女性(48)は話す。阪堺の担当者は「安いからと乗車してくれる人もいる。将来的には人の流れが変わる可能性もある」と懸念する。

 では、支援終了後の路線活性化に必要な条件は何か。阪堺では「知らない人に知ってもらう、乗ってもらう取り組みは必要だ」と話す。つまり、観光客の利用増をもくろんでいる。

 路面電車に詳しい関西大学の宇都宮浄人(きよひと)教授(交通経済学)も、観光客の足としての路面電車は「知らない土地での移動手段として網の目のような路線バスよりも心理的に利用しやすい」と指摘する。

 阪堺沿線のうち高須神社-御陵前区間は一部に古い町並みが残る堺の旧市街地「環濠エリア」を走る。沿線を離れるものの、世界遺産登録された百舌鳥(もず)・古市古墳群を構成する仁徳天皇陵古墳(大仙古墳、堺区)もある。コロナ禍で先は見えない状態だが、阪堺はこういった観光資源を電車を利用して巡ってもらえるように、市と意見交換を続ける。

 川勝教授は「阪堺の自立を促すために始まった支援は一旦リセットされる。ここからは市民は利用することで支え、市はまちづくりのパートナーとして阪堺を活用し、阪堺も観光客誘致などで市との連携を深めることが求められる」と期待を込める。

 地域に愛される路面電車として生き残れるのか。阪堺は正念場を迎えている。

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