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【ビブリオエッセー】心の中に生き続ける伝説 「聖の青春」大崎善生(角川文庫、講談社文庫)

 小学校2年生の息子は将棋が大好きだ。保育園の年長から始め、お迎えに行くと大抵はお友達と将棋に興じており、「帰るよぉ」と声をかけると「これが終わるまで待ってぇ」という返事が返ってきた。最近は新型コロナのためお世話になっていた道場の閉鎖が決まり、がっかりしている。でもこればかりは仕方ない、しばしオンライン対戦で腕を磨くことにしている。

 今もってルールの分からない私だが息子につられて新聞の将棋欄をチェックし、「○○さん、勝ったな」「また角換わりやね」などと言っているのが少しおかしい。息子のヒーローはもちろん藤井聡太君や羽生善治先生。でも私にはもう一人、気になる棋士がいた。このノンフィクションの主人公、村山聖さんである。

 平成10年、病のため29歳で亡くなった。今も時々、過去の映像を見かける。それくらい将棋ファンの心の中に生き続けている棋士なのだ。

 「名人になりたい」。「怪童」と呼ばれた広島の天才少年は将棋の才能を伸ばし、一歩一歩夢に近づいていった。しかし彼の人生は重い病との闘いでもあった。病気でなければもっと勝てたのに…。かわいそうだ、そう感じた。

 将棋雑誌の編集者としてすぐ近くで村山さんを見てきた大崎さんが描くその人柄を知ると、さらに切なくなる。最強のライバル、羽生さんをはじめ強豪との命を削るような対局の場面はこちらも手に汗を握りながら読んだ。

 人生にタラレバはない。与えられた場所と境遇で生き抜くしかない。そう思うと、こんなに好きな将棋に出合い、素晴らしい家族や師匠、仲間たちに深く愛された人生を、一方でうらやましくも感じた。かなわない夢だが村山さん、あなたにお会いしたかった。あなたに手合わせしてもらう息子の肩越しに。

 奈良市 今村智子 39

【ビブリオ・エッセー募集要項】

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 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。 

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