PR

産経WEST 産経WEST

【ビブリオエッセー】取材ノートに残されたメモ 「珊瑚」新田次郎(新潮文庫)

 新田次郎の小説が好きで若いときに全部読んだつもりでしたが、旅先で初めて知った小説が本書でした。

 コロナ禍が今ほど大きなニュースになっていなかったころ、九州の一の宮を巡拝するバイクツーリングの旅に出ました。そのとき、以前見た旅番組に触発されて五島列島の福江島まで足を延ばしたのです。エメラルドグリーンの海を眺めるために。只狩山の展望台の標識に誘われ、富江の町を一望できる高台に立ち寄ったときそこで見つけたのが、新田が富江珊瑚を題材に書いた小説『珊瑚』の記念碑でした。

 本を手に取って驚いたのは、巻末の取材記が文庫本で29ページにもわたっていたことです。きっかけは著者のもとに届いた一通の封書でした。気象台の職員からの便りで、同封されていたのは富江のサンゴ船の海難をたどった新聞記事のコピーでした。明治時代の話です。それは富江のサンゴ漁の最盛期でしたが、気象による遭難事故も相次ぎ、多くの犠牲者が出ていたという事実を気象庁に長く勤めていた著者も初めて知ります。要因がサンゴ漁ということにも衝撃を受け、取材を重ねたそうです。

 構想を練る中で主人公探しに悩んでいたところ、取材ノートの「周防大島の梶子三人」というメモが目に入ったといいます。明治後期、瀬戸内の島からサンゴ漁にロマンを求めて福江島に渡った三人の若者がいた…。取材記を読むだけで小説を読んだ気持ちになりました。

 山岳小説が得意な新田には珍しい海洋小説。サンゴ漁や当時の海の遭難事故がリアルに描かれています。この小説は三人の若者と一人の美少女をめぐる純愛物語でもあります。新田文学の新たな魅力を発見した思いでした。

 堺市北区 住川章雄 68

【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ