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ソーシャルディスタンスの正解とは オーケストラの苦悩

 オーケストラの「ソーシャルディスタンス(社会的距離)」は、何が正解なのか-。普段は大勢の奏者が舞台上に緊密に隣り合うオーケストラが、奏者間の距離を広めにとるなど、感染症対策に苦慮している。また、客席も聴衆同士が近づかないようにするほか、「ブラボー」などの掛け声を禁止するホールも多い。オーケストラの醍醐味(だいごみ)は大勢の奏者の個性が混ざり合って奏でられる音を、客席も一体化して楽しむこと。最適な距離の取り方の模索が続いている。  (安田奈緒美)

「別の神経つかう」

 今月中旬、大阪フィルハーモニー交響楽団は約3カ月ぶりに練習を再開した。ただ、演奏はこれまでどおり、というわけにはいかなかった。新型コロナウイルス感染拡大を防止するために、トランペットやホルン、フルート、クラリネットなどの管楽器の奏者の間は2メートル、バイオリンやチェロなどの弦楽器の間は1・5メートルと定めたからだ。今まではお互いの音を聴き合うために隣り合っていた奏者がずいぶん遠く感じる。

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 「視覚で指揮者やほかの奏者を頻繁に追ったり、いつもとは違う神経を使う」「他人の音と混ざってこそオーケストラ。その混ざり合いを感じるのが難しい」

 練習では楽団員から不安も漏れたが、それでも26日に大阪・フェスティバルホール(大阪市北区)で行った一般客を入れた4カ月ぶりのコンサートでは、ベートーベンの交響曲第5番「運命」の生命力あふれる音楽をホールに響かせた。

 「お客さんがいてくださって、楽しみにしてくださった気持ちに答えたい思いで、演奏しました。改めてオーケストラで演奏する喜びを感じました」。公演後、コンサートマスターの須山暢大さんはうれしそうに話した。

科学的に検証

 今月27日にコンサートを再開した関西フィルハーモニー管弦楽団は5月、公演を再開させるために、相互に距離をとったうえで、音の響き方などを確かめる実験を行った。その結果、管楽器の奏者の間は2メートル、弦楽器の間は1・5メートルとした。

 ヨーロッパでは、ドイツで、この距離が推奨されており、日本国内のオーケストラもその間隔にならうところが多い。ただ、これだけ間隔を取ると、一度に舞台に配置できる人数は限られる。関係者の多くが「100人以上の奏者が参加する大曲の演奏はなかなか実現できないことになり、コンサートのプログラムの選択肢が狭まってしまう」と頭を抱える。

ソーシャルディスタンスと音の響きについて実験を行った関西フィルハーモニー管弦楽団
ソーシャルディスタンスと音の響きについて実験を行った関西フィルハーモニー管弦楽団
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 一方、世界屈指のオーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は、奏者間80センチと緊密な距離感で公演を再開させた。

 「奏者間のソーシャル・ディスタンスを縮めることは、できるのではないか」

 日本でも、公演の再開に向けたガイドラインとロードマップ策定を検討する「クラシック音楽公演運営推進協議会」などが7月、適正なソーシャルディスタンスを探る科学実験を行う。感染症の専門医をはじめとする医療関係者らにも加わってもらい、楽器演奏や歌ったさいの飛沫(ひまつ)の飛散を検証するもので、NHK交響楽団などの楽団員数十人以上が参加し、新日本空調(東京都中央区)の長野県茅野市にある微細飛沫も測定できるクリーンルームを使って行う。

 同協議会の丹羽徹さんは「欧州の実験などでは、管楽器の飛沫は少ないというデータもあり、国内でも実験したい。奏者間の距離を縮められれば、コンクールや練習の機会が失われている学生の吹奏楽団体や合唱団体にとっても朗報になるはず」と話す。

ブラボー禁止

 兵庫県立芸術文化センター(兵庫県西宮市)は来月から公演を再開するにあたり、今月中旬、兵庫芸術文化センター管弦楽団のデモンストレーション演奏を関係者らに公開した。奏者の間に距離を取るだけでなく、管楽器奏者の間にはアクリル板を置いて飛沫拡散防止策をとった。

約4カ月ぶりに聴衆を入れたコンサートを行った大阪フィルハーモニー交響楽団=26日、大阪市のフェスティバルホール(飯島隆さん撮影)
約4カ月ぶりに聴衆を入れたコンサートを行った大阪フィルハーモニー交響楽団=26日、大阪市のフェスティバルホール(飯島隆さん撮影)
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 聴衆の間の距離にも注意を払った。同センターでは、訪れた人が入場する際に、サーモグラフィーで検温を行うほか、これまで手渡しで配布していたプログラムやチラシも任意で取ってもらう方式を検討する。また、客席は前後左右に人が重ならないように1席以上離して市松模様のように配席。演奏後、称賛を伝えるための「ブラボー」も控えてもらうように、アナウンスする。

 「良い演奏に、ブラボーが言えないのはなんとも寂しいですよね」と溜息をついたのは芸術監督の佐渡裕さんだ。奏者間の距離にも戸惑うが「音楽は、国籍も世代も、考え方も異なる人たちが、つながることができる芸術。コロナ禍に世界が混乱している今だからこそ、同じ時代に生きる人たちと音楽でつながっていたい。そのためにも、一歩ずつ前に向かっていきたい」と話し、模索を続けていくことを誓った。

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