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【ビブリオエッセー】「母と娘」でいられる時間 「波打ち際のふたり」(『あなたは、誰かの大切な人』より)原田マハ(講談社文庫)

 「親がだんだん年をとってくると、お母はんと私、母と娘でいられる時間はだんだん減っていくんやなあ」

 「波打ち際のふたり」の中のそんな一節を見た時、私は思わず涙があふれ、母とゆったり過ごしていた帰省中のリビングを慌てて飛び出した。

 私は20歳で母は54歳。認知症だとか介護だとかはまだもう少し先の話なのかもしれない。しかし私は母に介護される祖母の姿が頭に浮かび、重ねてしまった。数年前まで祖母と母は間違いなく「母と娘」だったのに、と。

 私の母はなんでもできる。少し天然なところもあるが、なんでもひとりでテキパキこなす力強くたくましい女性だ。でも母だって人間なのだ。いつか必ず老いる-。

 「波打ち際のふたり」は東京で広告ディレクターとして仕事一筋に生きてきた45歳の主人公ハグと証券会社の管理職で大学時代からの親友ナガラが「波打ち際のギリギリに建つ宿」へ、1泊2日の旅に出る話だ。独身同士、恒例の気楽な「女ふたり旅」のはずが、今回は違った。ハグは母のことが気がかりだった。少し前に認知症と診断された母のことが。

 少しずつ確実に変わっていく母と娘の関係。読みながら私は、今のままの私で後悔しないだろうかと思った。母より友人、母より仕事、母より自分? 一緒にいろんな場所へ行き、話をして、想いを共有できることがどれほど幸せなことか、いつか深く思い知るのではないか。

 まだ早いと言われるかもしれないが、私は見つけてしまったのだ。波打ち際を歩くふたりの女性の物語に、年老いた母と私の姿を。

 遠くが見える物語。今日は久しぶりに、スーパーへ行く母についていくことにした。

 東京都杉並区 永瀬未留 20

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