醤油の街、消えた観光客 「観光戦略、ようやく実を結んだのに…」
それでも「暗い表情で観光客や買い物客を迎えたくない」と、加納代表は、会社に伝わる創業当時の醤油造りの道具一式や吉野杉の仕込み桶(おけ)、古文書などを集めた資料館の無料公開を通常通り続けている。
資料館の展示説明は、角長の元社員で近くに住む本下(ほんげ)博美さん(70)が担当。感染防止対策で、マスクを着用して案内し、館内にはアルコール消毒液も置いている。

角長では例年、資料館には大型連休中、約300人の観光客が訪れていた。
さらに毎年秋には、小学生たちが醸造蔵で実際に職人の仕事を学べる社会見学も受け入れており、昨年は約2千人が訪れた。
「桶で発酵させた醤油の材料となる諸味(もろみ)を、木棒でかき混ぜる『櫂(かい)入れ』体験は特に人気で、みんな表情を輝かせる」と加納代表。
4月16日には緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大され、外出自粛が強く要請されているが、「秋までには、なんとか新型コロナが終息してくれれば」と期待する。(西家尚彦)
湯浅醤油 和歌山県湯浅町周辺で製造される醤油。大豆と小麦、塩を原材料とする醤油造りは、中世に湯浅地方で広まったとされる。江戸時代には紀州徳川藩の保護で、関東地方にも出荷された。江戸時代後期には湯浅には約90軒の醸造元があったが、戦後は大量生産する大手メーカーに押され、角長など数軒に減少している。