PR

産経WEST 産経WEST

【ビブリオエッセー】抜きん出た面白味と清涼感 「けろりの道頓」(『おれは権現』(講談社文庫)より)司馬遼太郎

 「道頓堀」と聞くと大半の人は、「阪神ファンが飛び込む川」「あの汚い川」…といったありがたくないイメージを抱くのではないだろうか。しかし、この道頓堀、なかなか侮れない川なのだ。

 近世大坂は全国から米や焼物など様々な物資が海運により運ばれてくる物流の中心地だった。それらを活発に取引した商人たちが大坂を「天下の台所」として発展させた。中でも道頓堀(川)はモノが集まる大阪湾沿岸部と城下町とを直接つなぎ、大坂を「天下の台所」たらしめていた。いわば水の都・大坂の象徴なのだ。なのに、道頓堀を開削した人物について知っている人は多くないだろう。

 その人物こそが、この短編『けろりの道頓』の主人公、安井(成安)道頓。武士ではないが、人を集めて道頓堀の開削を始めた。だが、道頓の存命中に道頓堀は完成していない。大坂の陣に、老齢(七十代とも八十代ともいわれる)でありながら、武士でもないのに「恩義がある」と豊臣方として出陣し、戦死を遂げているからだ。こんな滅茶苦茶な人物、小説の題材として面白くないわけがない。

 しかし、道頓を取り上げた作品は驚くほど少ない。そんな中で司馬遼太郎が、個人の人物像を極端に強調する手法で道頓を描いたこの作品は、抜きん出た面白味を持つ。道頓の「けろり」とした人物像は、読者に抜群の清涼感を与えること間違いなしだ。

 ぜひお読みいただきたい。そして、水の都・大坂と道頓に思いを馳せてみてはいかがだろうか。

大阪府豊中市 大阪大学文学部4年 吉澤林助 22

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ