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【ビブリオエッセー】タカラヅカを愛した時代 「朱鷺の墓」五木寛之

 会話が海外旅行に及んだとき、私は笑わせネタでも言うように「一度だけ、ニューヨークへ行きました」と答え、「宝塚歌劇の観劇ツアーで」と続けた。それを聞いて皆はずっこけるがこれは事実。平成元年秋、私は女性客で埋まったノースウエスト航空で海外公演の選抜メンバーに選ばれた、あるタカラジェンヌを応援するため独り渡航した。いわゆる追っかけである。

 宝塚歌劇に夢中になったきっかけは、「鳳蘭さんがこの公演で退団するからそれまでに一度でいいから観ておきなさい」と母から渡された三階席の券だった。公演は『白夜わが愛』。日露戦争の時代に始まるロシア貴族(鳳)と金沢の芸妓(遥くらら)のラブロマンスで、共演の二人はともに長身、広い舞台にひときわ映えた。

 何となく観た公演だったがその影響は大きかった。ライヴレコードを繰り返し聞き、台詞まで覚えた。その後、五木寛之氏の原作『朱鷺の墓』を読み、その艶めかしい描写と舞台とのギャップに、頭の中で激しく葛藤した。原作にロシアンティーが出てくれば食パンにつける普通のジャムを紅茶に溶かして飲み、独り悦に入った。

 …その後も私はこのタカラジェンヌを応援し続け、彼女が宝塚を退団するときは自分も一区切りつけようと思った。結局、約十二年間、宝塚歌劇を見続けたことになる。

 『朱鷺の墓』というよりタカラヅカの話になってしまった。唯一の海外旅行が宝塚歌劇…こういうのも私らしくていい。若かったなぁ。そんな過去が愛おしくさえある。

 神戸市東灘区 佐野武62

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

 投稿はペンネーム可。600字程度で住所、氏名、年齢と電話番号を明記し、〒556-8661産経新聞「ビブリオエッセー」事務局まで。メールはbiblio@sankei.co.jp。題材となる本は流通している書籍に限り、絵本、漫画も含みます。採用の方のみ連絡、原稿は返却しません。二重投稿はお断りします。

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