PR

産経WEST 産経WEST

「瀧本哲史を偲ぶ会」を振り返って(下) 武田隆氏

 偲ぶ会の後、懇親会が催された。楽しく前向きな空気の中、参加者のみんなが笑顔であった。きっと瀧本も喜んでいたのではないだろうか。六本木ヒルズの最上階から東京タワーが見えていたが、オレンジ色の光彩も、この夜はひと際、センチメンタルに届いた。

 改めて、瀧本哲史は、私たちに何を届けてくれたのか。

 瀧本は、戦略こそが重要だと言い続けた。勝つための戦略を立案するには、考え抜くことが必要で、それは徹底して悲観的に考えることなのだと教えた。最悪の事態を想定しておけば、やってくる現実に対して対応しやすい。

 瀧本の戦略会議は苛烈であった。瀧本の論理の強さは圧倒的であったが、より有効な代案が示されると、それが自身の主張の対極案であっても、あっけらかんと切り替えた。その議論の進行速度に皆、目がくらんだ。

 勝利に向けてこだわりなく、より合理的なものを躊躇(ちゅうちょ)なく選択するという姿勢は一貫していた。それゆえ、瀧本は、気分や雰囲気というものを嫌った。また、常識や不文律や多数決も受け付けなかった。むしろ、その逆張りにこそ勝機があるとして、「なぜか理由は分からないがなんとなく正しそう」といったものに対し、容赦なく論理の刃先を向けた。

 瀧本のベンチャー経営戦略論の特徴は、そのモデルがはっきりと提示されていないところにある。戦略は、あくまで勝利のための手段であり、条件によっていくらでも変化するものであったからなのか。はたまた、戦場で起こる真剣勝負の瞬間の、個別の現実にこそ本質をみようとしたからなのか。戦地において有効な名言が散逸的にそれぞれ記憶されているものの、その生涯を通して、全てに適応可能な戦略モデルを作ることはなかった。

 また瀧本は、机上において透徹した戦略を立案する軍師でありながら、とりわけ、ベンチャー企業のゲリラ前線への同行を望んだ。ベンチャー経営の一寸先は闇である。

結果はいつも不確実であるし、「努力は報われる」という優しさを現実は持ち合わせていない。そんなシリアスな戦略会議の卓上で、瀧本がよく発した言葉がある。

 「起こったことは全て正しい」

 環境の要因にせよ、誰かの責任にせよ、結果は変わらないし、どうせ時間は戻せない。諦めずに戦う選択を取るならば、起きた現実を「塞翁が馬」と捉えることは、たしかに前向きで合理的だ。戦略が続行される限りにおいて、今は極大に感じるダメージも、おかげで良くなったと思えるときが訪れる可能性が残る。

続きを読む

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ