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【ビブリオエッセー】変わらない人間の孤独と不安 「変身」フランツ・カフカ著 中井正文訳(角川文庫)

 例えばの話ではあるが、ある朝、目が覚めたら毒虫ならぬ他の動物、鳥や犬やカブトムシ…にあなたが変身していたらどうだろう。こんな話は聞きたくもないし、現実的には起こり得ない。しかし、この小説はそのことを題材に世界的名声を得た作品だ。

 一体、自分の姿と行動に人間としての価値を見出せるかどうか。考えても所詮は徒労に終わる。仮にゴキブリなどに変身していたらそれこそ、この作品のように忌み嫌われ部屋の片隅に追いやられるに違いない。まだしも猫の方がよりましというものだ。猫の目から見た人間とはどんな風なのだろうか。

 1912年にこの作品が書かれてから100年以上もの歳月が流れ、世情は変化しているが、人間の孤独や不安、期待に変わりはない。

 文中にある「忍耐と、最大の遠慮をすることで、自分の現在の状態がどうしようもなしに惹きおこす不快な面倒を家族のみんなに我慢してもらわねばならぬ」というくだりは、まさしく現代に生きる私たちの思いに他ならない。

 つまるところ変身しようがしまいが世の中は絶えず変動し、自分自身もまたその渦中に身を委ねなければならないという現実がそこにある。

 毒虫になり家族と交わす言葉を失った主人公、ザムザ。本の世界から現実に戻ると、「枝豆がおいしく茹で上がったわよ」「ズボン、ちょっと綻びができているみたいね」など、なんでもない会話が耳に入る日常がある。それこそ人間に与えられた特権というものであり、素晴らしさなのかもしれない。

大阪府岸和田市 竹内健一73

 【ビブリオ・エッセー募集要項】本に関するエッセーを募集しています。応募作品のなかから、産経新聞スタッフが選定し、月~土曜日の夕刊1面に掲載しています。どうか「あなたの一冊」を教えてください。

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